考察『光る君へ』21話 中宮(高畑充希)のいる世界の美しさを謳いあげた『枕草子』は清少納言(ファーストサマーウイカ)の「光る君へ」
大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00~)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。21話「旅立ち」では、のちの紫式部であるまひろ(吉高由里子)の助言もありつつ、清小納言(ファーストサマーウイカ)が、悲劇の中宮・定子(高畑充希)に『枕草子』を捧げるエピソードが描かれました。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載21回です。
中宮はもう……
中宮・定子(高畑充希)の落飾。隣にいた検非違使の刀を奪った時は乱心かと思ったが、髪をひと房切り落としたのちに、母・貴子(板谷由夏)に向き合い、 定子「出家いたします」 その表情は落ち着き、覚悟の上での行動だったことが伝わる。 「いきなり髪を下ろし、朕の政に異を唱えた中宮も(伊周と)同罪である」と怒りを見せる一条帝(塩野瑛久)も、実資(秋山竜次)と行成(渡辺大知)が御前を辞すると「中宮はもう、朕に会わぬ覚悟なのか」と悲嘆にくれる。 愛する后の突然の出家に、聡明な帝の心が大きく揺れている。
得をしたのは道長?
「この騒動で得をしたのは誰であろうか。右大臣様(道長/柄本佑)であろう。花山院(本郷奏多)との小競り合いを、ことさらおおごとにしたのは右大臣だ」 当時の貴族たちがみな考えたであろう、そして今も有力な「長徳の変の首謀者は藤原道長」説をまひろ(吉高由里子)に提示してくれる宣孝(佐々木蔵之介)。 まひろには、その発想はなかった。18話、ききょうから道長の内裏での評判を聞いたときの「あのひと、人気ないんだ……」と同じく、彼女だけが知る道長と世間から見た道長像には、当然だが乖離がある。
母への失望
大宰府には絶対に行きたくない伊周(三浦翔平)。実際、花山院に矢を放ったのは自分ではないし呪詛も身に覚えがないとなれば、そりゃ納得いかないし泣きたくもなるだろう。しかし身に覚えはなくとも、配流はすなわち政治的敗北である。酷ではあるが、受け入れず足掻くのは、政治家として貴族として見苦しい。 第3話で貴子は、庭で転んで泣く幼い定子(木村日鞠)に 「自分でお起きなさい」 「何にも動じず、強い心を養わねば帝の后になれません」 と言っていた。いま、泣きわめき立ち上がれない22歳の内大臣・伊周には歩み寄り、 「もうよい。母も共に参るゆえ。大宰府に出立いたそう」 と、助け起こしている。 この場面での、定子の母への失望の表情。貴子も他の誰も、定子に「もうよい」とは言ってくれない。出家しても救われない自分。 しかし貴子も、突然出家した娘に見捨てられたと思ったのかもしれず……家族がバラバラになり、孤独感が定子の心を圧し潰してゆく。