海自の悲願! 70年越しで実現した「空母保有」なぜ挫折続いた? 真価問われるのはこれから
空母とイージス艦を天秤にかけた結果…
海自はこの間にASW能力の向上を図るため、ヘリを複数機搭載できるDDH、艦隊防空の中核となるDDG(ミサイル護衛艦)、そしてヘリ1機を搭載できるDD(汎用護衛艦)を組み合わせた8隻の護衛艦と8機の対潜ヘリで構成される戦術単位「8艦8機体制」の構想を固めます。この構想に基づいてHSS-2B哨戒ヘリの開発と、同機を搭載するはつゆき型護衛艦の建造が行われています。 ここまではASWに主眼を置いてきましたが、1970年代後半にはソ連海軍航空隊のツポレフTu-22など陸上爆撃機による艦艇への攻撃が、脅威として現実味を帯びてきました。防衛庁に設置された「洋上防空体制研究会(洋防研)」で海自は、高速で飛来するミサイルに対処するため次世代DDGとしてイージス艦の導入を求める一方、爆撃機への直接攻撃を行えるよう、イギリス製の垂直離着陸戦闘機「シーハリアー」を艦載戦闘機として運用可能な航空機搭載護衛艦(DDV)の提案に踏み切ります。 結局このときは、こんごう型護衛艦となるイージス艦の整備が優先されたため陽の目を見ることなく終わりますが、全通甲板を備えた自衛艦の構想は生き続けることになりました。 艦橋と煙突が一体化した構造物を右舷側に寄せて配置する全通甲板型の海自艦艇は、まずおおすみ型輸送艦で実現します。続いて2001年度から2005年度までの中期防衛力整備計画(13中期防)で護衛艦はるなの代替として、「指揮通信機能及びヘリコプター運用能力等の充実」を図ったDDHの建造が盛り込まれました。これが全通甲板を持つひゅうが型護衛艦として、2009(平成21)年3月に1番艦「ひゅうが」が、2011(平成23)年3月に2番艦「いせ」が、それぞれ竣工します。
いずも型の空母改修、ここからが本番だ
ひゅうが型は、広い飛行甲板と格納庫を併せ持つヘリ運用の能力に加えて、有事や大規模災害時に洋上の司令部として機能するための設備が備わっています。ただ、一方で短魚雷発射管や、「シースパロー」対空ミサイル並びに「アスロック」対潜ロケットの発射が可能なVLS(垂直発射装置)を装備するなど、汎用護衛艦と同程度の戦闘能力も維持していました。 そのため、現在の目で見ると中途半端さは否めないものの、物資輸送を行える余裕を持った船体と高い指揮通信機能、そして航空機運用能力は、2011年3月11日に発生した東日本大震災の災害派遣で大いに役立つことになります。 このひゅうが型をさらに発展させたのが、このたび空母改装され話題となった、いずも型護衛艦です。1番艦「いずも」は2015(平成27)年3月に、2番艦「かが」は2017(平成29)年3月に就役しています。任務の多様化や陸海空自衛隊を一体的に運用する統合運用体制の整備を踏まえ、航空機運用能力や指揮統制能力が強化されています。 2018(平成30)年末に政府が決定した「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と「中期防衛力整備計画」(2019~2023年度)では、STOVL(短距離離陸・垂直着陸)タイプの戦闘機であるF-35Bを導入し、洋上運用できるよう、いずも型を事実上の空母へ改修することが明記されました。これに合わせて、まず「いずも」でF-35Bを発着艦できるよう最低限の工事が行われた後、「かが」では艦首部分を台形から長方形へ変える大規模な改造が2024年3月まで実施されています。なお、「いずも」も2024年度末から飛行甲板の改造を伴う工事が行われる見込みです。 海自創設時から計画されていた空母の保有は、「いずも」「かが」の改修完成でようやく叶うと言えるでしょう。しかし大事なのは固定翼機を搭載可能なDDHを今後、有効的に活用するにはどのような体制が望ましいかということです。 F-35B戦闘機は航空自衛隊が導入する機材ですが、「いずも」「かが」に搭載した場合にどのような運用を行うかはまだ詰められていないようです。叶った夢を現実のものにするためにも、海空が連携して抑止力を発揮できる体制整備が行われることを期待しています。
深水千翔(海事ライター)