山奥で出会った不思議な物売りが、とつぜん自らの腕を斬りつけ…江戸時代から続く「禁断のセールストーク」が凄まじかった
日本の各地で受け継がれている、不思議な風習。その行為そのものは行われなくなったとしても、その名残は現代にも確かに息づいている。異端なもの、アウトサイダーなものを深く愛し、執筆活動を続ける杉岡幸徳さんが筑波山で出会った不思議な物売りについて、紹介します。 【写真】物売りがとつぜん自らの腕を斬りつけ…江戸時代から続く禁断のセールストーク
筑波山に出没する「ガマの油売り」
「ガマの油売り」という人々がいる。どこからともなく路上に現れ、奇跡の霊薬とされる「ガマの油」をすばやく売りさばいたかと思えば、どこかへ姿を消す人々だ。茨城県の筑波山の周辺に出没することが知られており、私はそこで何度か目撃している。油売りは野武士風のかっこうで現れ、人々の前でこう叫び始めた。 「さあさあ、お立ち合い。御用とお急ぎでなかったら、ゆっくりと聞いておいで見ておいで。手前ここに取り出だしたるは陣中膏はガマの油だ。ガマといっても、そこにもいるここにもいるというガマとはガマが違う。これ四六(しろく)のガマだ。前足の指が四本。後足の指が六本。これを合わせて四六のガマだ。このガマの住むところは、筑波山の麓、峰にかけて生えている大葉子(おんばこ)という露草をば喰ろうて育ちまする」 しきりに、これは筑波山で獲れた四六のガマと強調するのだ。
「ガマの油」の製法
さらに、油売りはガマの油の製法についてわめく。 「このガマからこの油を採るにはだ、山中深く分け入って、捕え来ましたるこのガマを、四角四面に鏡を張り、その箱の中にガマを追い込み――、さあガンマ先生、己の醜い姿が四方の鏡に写るのを見てビックリ仰天、『ハハア、俺という奴は何という醜い姿であろうか』と驚き、体より油汗をタラーリタラーリと流す」 この垂れ流した油を集めて二十一日間も煮込み、椰子油やテレメンテーナ、マンテーカなどを混ぜて練ったのがガマの油だという。 ガマの油は火傷、アカギレ、インキンタムシ、痔、刀傷、すり傷、虫歯……などにすさまじい効果を発揮するという。さらには、赤ん坊にはガマの油の空き箱を見せるだけで、汗疹やかぶれが治るというのだから恐ろしい。