なぜ森保監督はスペインで苦しむ柴崎岳を日本でのベネズエラ戦に帯同させたのか?「呼びたいから呼んだのでは」
柴崎が言及した「ありのまま」とは、新監督が描く構想のなかになかなか食い込めない状況をさす。元U-21イタリア代表のFWサムエレ・ロンゴらとともに、1部復帰への期待を背負って加入しながら活躍できていないと、スペインのスポーツ紙『アス』で批判されたことも含まれるだろう。 昨シーズンのヘタフェでも、リーグ戦の出場がわずか7試合と実質的な構想外に置かれた。今年1月の移籍市場で5シーズンぶりに2部を戦っていたラ・コルーニャ入りが決まりかけたが、ヘタフェの中盤の選手にけが人が続出した事情も相まって破談となった経緯があった。 しかし、逆境に直面しながら所属クラブで積み重ねられた努力をフル代表につなげ、森保ジャパンで見せるパフォーマンスをスペインへと持ち帰るサイクルを柴崎は崩さなかった。代表へ復帰した昨年10月以降の戦いを振り返れば、選手を完全にターンオーバーしたウズベキスタン代表とのアジアカップ・グループリーグ第3戦を除き、森保ジャパンでは最多となる22試合に出場している。 そのなかには東京五輪世代を中心とする陣容で臨んだ、6月にブラジルで開催されたコパ・アメリカ2019も含まれる。森保一監督から寄せられる厚い信頼感はイコール、指揮官を兼任する東京五輪でオーバーエイジが必要だと判断された場合に、真っ先に白羽の矢が立てられる状況をも連想させる。 敵地ビシュケクでキルギス代表とのカタールワールドカップ・アジア2次予選を14日に戦い、パナソニックスタジアム吹田でベネズエラ代表とのキリンチャレンジカップ2019を19日に控える11月シリーズへ招集したメンバーを見ても、柴崎がキープレーヤーであることが伝わってくる。
キルギス戦後にキャプテンのDF吉田麻也(サウサンプトン)、通算キャップ数を122に伸ばして歴代2位の井原正巳(現柏レイソルヘッドコーチ)に並んだDF長友佑都(ガラタサライ)、歴代2位タイとなる国際Aマッチ5戦連続ゴールを決めたMF南野拓実(ザルツブルク)ら、9人のヨーロッパ組が大阪へは向かわず、それぞれの所属クラブへと戻っていった。 「よりいいコンディションで自チームへ戻ってもらうことで、自分のポジションをつかみ、あるいはさらにパフォーマンスを上げてチーム内で存在感を発揮してほしいと考えました」 ベネズエラ戦へ向けて9人を入れ替えた理由を聞く限りはラ・コルーニャで窮地に立たされている柴崎を日本へ帯同させた意図が伝わってこなかった。 柴崎自身は「呼びたいから(自分を)呼んだのでは」と苦笑するが、今月6日のメンバー発表会見で森保監督がつけ加えた言葉をあらためて思い起こしてみると、長短のパスを操る不動のボランチをスペインへ戻さなかった指揮官の真意が見えてくる。 「選手の出場数や出場時間、現在のコンディションなどのどれかひとつだけを考えて線引きはしていない。これまで選手たちが自チームでどのような活動をしているか、という立ち位置も含めて、バランスを見ながら決めた。はっきりとした基準があるのではなく、いろいろなことを考慮しました」 大阪で合流した9人のなかには、MF古橋亨梧(ヴィッセル神戸)やFWオナイウ阿道(大分トリニータ)ら4人の初代表組が名前を連ねている。復帰組の5人にも、MF大島僚太(川崎フロンターレ)やMF井手口陽介(ガンバ大阪)ら、森保ジャパンにおけるプレー経験がない選手が顔をそろえた。 「どんな状況でも、どんな相手に対しても、自分の力を常に発揮しなければいけない。ホームもアウェイも関係なく、ピッチの上で存在感を発揮しなければいけない。存在感を出すようなプレーをするわけではなく、自分のプレーにしっかりと集中できていれば、おのずとそういうプレーになると思う」