拉致被害者・横田めぐみさん一家に「悪質なデマ」流れたことも…新潟に潜んでいた北朝鮮の“影”
「これは警察では分からないことかもしれない」
めぐみが北朝鮮にいると知らされたあとで考えたことですが、新潟にいた頃から、北朝鮮の影はちらちらしていたのかなあと思います。しかし、当時の私は北朝鮮がどんな国か深く知りませんでした。 めぐみの失踪事件は私たち一家が新潟に来て1年3カ月後に起きたので、新潟のことはまだ不案内でした。けれども新潟に長く住んでいた方が「これは警察では分からないことかもしれない」とおっしゃったことがありました。そのときは、どういうことなのか意味がよく分からず、私たちは警察を信じていましたから、「警察の方にお任せしてあります」と言いました。今思えば、それは北朝鮮のことを暗示していたのかもしれません。しかしその方も、特別な根拠があって、おっしゃったわけではないのでしょう。 北朝鮮と言えば、私たちが新潟を離れる少し前に、めぐみに関する悪質な噂が流れました。めぐみは北朝鮮に連れて行かれたが、頭がおかしくなって戻された。今は市内の某精神病院に入院している。そういうデマが広がったのです。 新潟のデパートに買物に行ったとき、子どもの友だちのお母さんに会いました。その方は私のところに飛んでくると「横田さん、めぐみちゃんが見つかって、本当によかったねえ」とおっしゃるので、私はびっくりしました。「えーっ!どこにいるんですか」と聞くと、その方は「あっ、違うんですか。こんなことを言って悪かったかしら」と驚いておられました。そこで私は初めて、そんな噂が流れていることを知ったのです。 もちろん、めぐみは戻ってなどいませんでした。私はその噂の出所をたどり、6軒目まで突き止めることができましたが、結局はっきりしたことは分かりませんでした。 冗談にしては悪質でした。もしもその噂を信じていたら、たとえめぐみを見かけた人がいても、警察に届けるのを躊躇うでしょう。 どんな情報でもいいから欲しいと思っていた私たちには、興味本位の噂にどれほど心をかき乱され、腹立たしい思いをしたことでしょうか。