東北の「きらやか銀行・じもとHD」、234億円の大赤字で「痛すぎる国有化」の全内幕…金融庁も想定外「公的資金を一年足らずで食いつぶす」まで
もうリストラもできない
山形県が地盤の第2地銀、きらやか銀行を傘下に持つ、じもとホールディングス(HD)の「意図せざる国有化」に金融庁が揺れている。 【一覧】「次の首相になってほしい政治家」岸田は15位…上位に入った「意外な議員」 きらやか銀行は、米リーマン・ショック後の2009年、東日本大震災後の2012年、新型コロナウイルス禍を受けた2023年と、3度にわたり計480億円の公的資金による資本注入を受けたが、2024年3月期決算で過去最大の最終赤字を計上するなど、業績は一向に改善しなかった。 公的資金の返済はおろか、資本注入の見返りに発行した優先株の配当さえできなくなり、国が議決権の6割以上を握る事実上の「国有化」に追い込まれた。 優先株は通常、議決権がない代わりに普通株に比べて配当金を優先的に受け取れるのが特徴だが、金融庁との契約で、無配の場合は議決権が生じる取り決めになっている。注入された公的資金が期限通りに返済されない場合も、普通株への転換を経て国に議決権が発生する。 じもとHDの場合、復配も、今年9月に期限を迎えるリーマン・ショック時の注入分200億円の返済も困難視されており、脱・国有化は難航が必至の情勢だ。 経営危機の元凶となったきらやか銀行は、顧客基盤が脆弱だ。日銀のマイナス金利政策解除に伴う金利上昇の影響で融資先企業の苦境が深まり、今後、不良債権処理コストがさらに膨らむ恐れがある。2022~2023年に支店を10店以上削減しており、リストラの余地も乏しい。
金融庁が打って出た「賭け」
金融庁はバブル経済崩壊後の1990年代後半、不良債権の膨張で債務超過に転落した旧日本長期信用銀行や旧日本債券信用銀行を破綻処理のために一時国有化した。2003年には、多額の不良債権を抱え過小資本に陥った、りそなHDに破綻を未然に防止する予防的措置として2兆円規模の公的資金を資本注入し、実質国有化している。 これらはいずれも金融庁が意図した上で行った「国有化」だった。 しかし、今回は事情が異なる。公的資金を繰り返し投入しながら、じもとHD・きらやか銀行が経営危機から脱せず、挙句の果ての国有化では、世論や野党から「金融行政の失策」と批判される――そう金融庁は警戒していた。 このため金融庁は、国有化回避に向けて賭けに出た。2023年9月に実施した3度目の公的資金180億円の投入がそれで、表向きはコロナ禍で打撃を受けた中小企業への資金供給の円滑化が理由だが、実際は、1年後に期限を迎える公的資金200億円の返済を確実に行わせる思惑だった。 「公的資金の借り換え」との批判を交わすため、新たな注入額を返済額よりやや少なめにしたほか、じもとHDと資本・業務提携するネット金融大手、SBIグループにも20億円弱を追加出資させ、「官民協調」の地域金融の円滑化支援の構図を描いていた。 にもかかわらず、じもとHD・きらやか銀行は1年も経たないうちに、新たに注入された公的資金も食い潰しただけでなく、あろうことか、9月の返済期限延長まで申し入れてきたから堪らない。 金融庁は「意図せざる国有化」を受け入れざるを得なくなり、栗田照久長官(1987年旧大蔵省)や伊藤豊監督局長(1989年同)ら首脳陣は「どうせなら2024年3月期に思い切った損失処理を断行させろ」と現場に指示したという。 これが当初、17億円の黒字を見込んでいた、じもとHDの2024年3月期決算が一転して234億円の巨額赤字に陥った顛末だ。