東北の「きらやか銀行・じもとHD」、234億円の大赤字で「痛すぎる国有化」の全内幕…金融庁も想定外「公的資金を一年足らずで食いつぶす」まで
『半沢直樹』も今は昔
リーマン・ショック後の旧民主党政権下の2009年12月に施行された「中小企業金融円滑化法」をきっかけとした地域企業支援優先の流れも、金融規律を失わせるモラルハザードを招いた。 返済期限を延長しても機械的に不良債権に分類しなくて済むようにしたことから「モラトリアム(返済猶予)法」と異名された円滑化法は2013年に失効したが、その後、自民党に政権交代しても状況は変わらず、コロナ禍では担保も保証人も不要の「ゼロゼロ融資」が大々的に展開されるなど、永田町では「企業を決して潰すな」との風潮が広がった。 選挙の支持基盤である地元企業を守りたい政治が主導したものとは言え、霞が関で影響力を高めたい金融庁もこれに便乗した。 「リレバン」の重要性をことさらに強調してきたのもそのためで、きらやか銀行はその尻馬に乗って「地元の有力第1地銀である山形銀行や荘内銀行が決して貸さないゾンビ企業に貸し込んだ結果、不良債権の山を築いた」(業界筋)とされる。 金融庁内では「資産査定検査を復活させるべきではないか」との声も出始めているが、検査局廃止以降の5年のブランクは大きい。『半沢直樹』に登場する敏腕検査官のモデルとなった目黒謙一元検査官(1966年旧大蔵省、ノンキャリ)は鬼籍に入った。平成金融危機時代の厳しい検査ノウハウを肌身で知る人材はOBにも乏しくなりつつあり、仮に資産査定検査が復活しても銀行側とギリギリ対峙する現場力があるかどうかは分からない。
地銀「二極化」の時代へ
上場地銀の2024年3月期決算は、貸出金利の上昇や株式市場の好調などを受けて約7割が増益となった一方、業績低迷が続く銀行も少なくなく、二極化が鮮明になっている。 人口減少による地元経済の縮小、相続や金融のデジタル化などによる顧客離れなど構造的な問題も横たわる中、資本基盤がもともと弱い第2地銀を中心に経営環境は厳しさを増している。過去に注入された公的資金をまだ完済できていないところもある。 金融庁のある局長級OBは「新時代の金融行政への転換などと浮かれて、本分である金融システム安定化努力を怠った結果、問題地銀の処理が遅れた。自業自得だ」と自嘲気味に振り返る。 当局として名誉挽回を図るには、まず、国有化で事実上経営権を握った、じもとHD・きらやか銀行を再編させて金融危機再燃の芽を摘むことだろう。ただ、これまで「弱小地銀の受け皿」と期待してきたSBIも「これ以上の追加支援は難しい」(関係筋)と二の足を踏んでおり、事態収拾は容易に進みそうにない。
週刊現代(講談社)