「アイヌ」として生きていく。90歳の作家・活動家、宇梶静江さんにインタビュー
未来に向けて、「アイヌ力(ぢから)」を発揮せよ
奇しくも、静江さんが古布絵を始めた頃、悪法といわれた北海道旧土人保護法が廃止された。そして2019年5月、アイヌ新法(アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律)が施行された。アイヌ民族を「先住民」と明記した初めての法律で、アイヌ文化の振興や、研究の推進などが盛り込まれている。しかし、アイヌ文化の基盤となる伝統的な狩猟や漁猟などの先住民族の権利については、この法律では触れられておらず、依然として禁止されたままだ。静江さんは、アイヌの人々の生活が安定し、自立するためにも、「奪われたアイヌの仕事を返してください」と訴え続けている。 カムイに感謝し、畏敬の念を持ち、自然の恵みを分け合って生きる。静江さんはアイヌの精神性を「アイヌ力(ぢから)」と呼ぶ。アイヌがひとつになるために、今こそアイヌ力を発揮せよ。そんな思いを込めて、2020年10月に『アイヌ力よ!』という詩を発表した。
解決すべき問題はまだたくさんあるが、それでも静江さんが活動してきた50年間で、状況はずいぶん変わってきた。「今は、アイヌとして生まれてよかったと思っています」。静江さんは、穏やかな笑顔でそう話す。北海道の白老町に移住して2年、力を注いでいるのは、アイヌとしての生き方をともに考える「アイヌ学」の確立だ。交流施設としてオープンさせた「シマフクロウの家」では、定期的に勉強会や講演会を開き、アイヌひとりひとりが自分のことを語ろう、アイヌの問題を理解しようと呼びかける。たくさんの同胞たちが、静江さんのもとを訪ねてくるようになった。「アイヌが少しずつ動き出している」静江さんはそう感じている。 「アイヌの人たちも、私の活動をよろこんでくれるようになりました。応援してくださる和人の方もたくさんいらっしゃいます。もちろん、アイヌに対する偏見や差別を隠し持っている人が多いのも事実で、そこはまだ凍りついたままです。これを雪解けに持っていくためにも、自分が学んできたことを積極的に語っていきたい。 最近は体が思うように動かず、布絵を作るのは難しいですが、アイヌの権利回復のためにできる限りのことを、希望を持ってやっています。2024年春には、全国のアイヌを集めたアイヌ大会の開催も予定しています。ウタリも、和人のみなさんも、みんなが認め合い、平和な社会を作っていってほしい。それが、私の最後の願いです」 何度も壁にぶつかり、何度も倒れてきた。それでも、90歳になった今もなお、前に進むことをやめない。「私はカムイに生かされている」と静江さんはいう。アイヌはここにいます。私たちのことが、見えますか――。かつて思いを託した幻のシマフクロウは、静江さんを見守り、今も導いてくれている。