J3が約3カ月遅れで開幕!初参戦FC今治はドロー発進…オーナー”岡ちゃん”「方向は間違えていない」
待ち焦がれてきた新たなスタートを、脳裏に焼きつけたかったからか。自らに課していたタブーをあえて解禁した。敵地・長良川競技場で27日に迎えた、Jクラブとしてのデビュー戦。JFLを戦ってきた昨シーズンまでは、アウェイ戦にほとんど足を運ばなかったFC今治のオーナー、元日本代表監督の岡田武史氏の姿が観客のいないメインスタンドにあった。 猛威を振るった新型コロナウイルスの影響を受けて、当初の予定よりも約3カ月半遅れで開幕した2020シーズンのJ3リーグ。日程の再編成に伴い、初めて昇格した今治の相手はFC東京U-23からFC岐阜へ、試合会場はホームのありがとうサービス.夢スタジアムからアウェイへ変わっていた。 昨シーズンの力関係で言えば岐阜がJ2の最下位であり、今治がJ1から数えて4部となるJFLの3位となる。大きな差があったはずの両者の激突は、今治が4度の決定的なチャンスを作るなど積極果敢なサッカーを展開。スコアレスドローに終わった90分間を、JFL時代に自身が敵地へ行ったときに負けたジンクスを忌み嫌い、観戦をあえてホームに限定してきた岡田氏は前向きにとらえた。 「みんなよく戦っていた。最後は精いっぱいなところもあったけど、あれだけ選手を入れ替えればしょうがないところもある。方向は間違えていないので、このままやっていければ」 前半開始早々の11分にビッグチャンスを得た。ベスト16に進出した2010年の南アフリカワールドカップを、代表監督とサイドバックの関係でともに戦った38歳の大ベテラン、駒野友一が右サイドから正確無比なアーリークロスを供給。セットプレー後に攻め残っていたセンターバック、チョン・ハンチョルが強烈なヘディング弾を見舞ったが、岐阜の守護神・松本拓也の美技に防がれた。
後半27分には駒野が放った右コーナーキックに、ニアサイドに飛び込んできたDF園田拓也が頭を合わせるも再び松本がビッグセーブ。ドリブルで攻め上がったDF原田亘がゴール右隅へ強烈なミドルシュートを放った1分後の場面でも、横っ飛びした松本の牙城を打ち破ることができなかった。 「勝ち点1は獲得しましたけど、内容からしても勝ち点3が取れた試合だったと思う。勝つためには得点を取らなきゃいけないので、ゴール前の精度というものをまだまだ上げていかなきゃいけない」 右タッチライン際を何度も駆けあがる豊富な運動量と精度の高いクロスが、まだまだ健在であることを証明した駒野は、勝ち点1にとどまった結果にむしろ表情を曇らせた。岡田氏の熱いラブコールを受けて、カテゴリーが2つも落ちるのを承知の上でJ2のアビスパ福岡から加入して1年半。J3だけでなくJ2までもが通過点である壮大な目標を、岡田氏と共有しているからだ。 しかし、開幕まで2週間を切った2月25日に、Jリーグはすべての公式戦を中断させる決断を下した。再開および開幕の目標が3度設定されては、収束する気配すら見せない新型コロナウイルスの前に流れ、一時は白紙状態に逆戻りした。サッカーのある日常がいつ戻ってくるのかを含めて、先行きがまったく見えなかった4月中旬に、岡田氏はあるメッセージを発している。 クラブの公式ウェブサイト上で、「FC今治ファミリーの皆さん」と銘打たれて公表されたそれには、サッカーに関わる者である以前に人間として、未曾有の危機で取るべき行動が綴られていた。 「こういう危機に際しては、いろいろなことを考えず、シンプルに一番大切なことを全うするべきだと考えています。つまり、命を守ることです。そのためには、感染しない、感染させない。(中略)試合の勝ち負けを分けるのは『たった一回ぐらい』『俺一人ぐらい』という小さなゆるみであることがほとんどです。新型コロナとの戦いも同じです。よく言われるように『外出しない』、『手洗いをする』を一緒に実行しましょう。FC今治ファミリーが一致団結して頑張っていきましょう」 今シーズンから指揮を執る39歳の青年指揮官、スペイン出身のリュイス・プラナグマ・ラモス監督のもと、2月のキャンプから作り上げてきたボールを保持するスタイルの構築を一時的に停止。7都府県に発令されていた緊急事態宣言が全国へ拡大されようとしていたなかで、今治を取り巻く状況がピッチの内外でゼロベースに戻ったとしても、感染しないことが何よりも重要だとメッセージで訴えた。