上野水香×マリアネラ・ヌニェス、『ラ・バヤデール』で初共演したふたりが語るバレエ愛、踊り手としての秘話。
― 強い女性として描かれるニキヤとガムザッティですが、ご自身との共通点はありますか。
ヌニェス もちろん! どんな人にも両極の面が必ずあって、「白鳥の湖」でいうところの白鳥と黒鳥のような二面性を誰しも持っていると思うんです。 上野 本当にその通りで。だからこそ演じるときには、その人の中にある自分との共通点を見つけて、そこに寄せていくようにしています。全部が一緒でなくても、どこか必ず自分と一致している部分があるので。私の場合は、本当に役に入りきっちゃう感じになりますね。 ヌニェス ただ私が持っていないのは、ガムザッティのアクセサリーやジュエリーかな(笑)。
― マカロワ版『ラ・バヤデール』の魅力についてお聞かせください。
ヌニェス マカロワ版がベストのバージョンだと断言できます。音楽のアレンジだったり、ストーリーの作り方やセットだったり、ソロだったりウェディングシーンをガムザッティに与えたりとか、そういう振り分けも含めて本当に素晴らしい作品です。さらに、ナタリア・マカロワさんご自身に教えていただきながらこの作品に臨めたっていうことが得難い体験でした。もうひとりの振付指導者のオルガ・エヴレイノフ先生が、今回も一緒に来日されたのですが、彼女と一緒にやってこれたことも大きいです。最初にこの作品に携わったのは、19歳でガムザッティを演じた時で、そのときもマカロワさんとオルガさんの両方から教えていただく機会がありましたが、最高の指導者を得て、この作品と繋がれたことは本当にスペシャルな出来事でした。 上野 分かるなぁ(笑)。私もマカロワさんの『ラ・バヤデール』と、マカロワさんご自身が踊られる白鳥とかドンキが本当に大好きで。リハでネラさんのパ・ド・ドゥを見ただけで、マカロワさんが好きなんだろうなってすごく伝わってきました。マカロワ版『ラ・バヤデール』は、英国ロイヤル・バレエ団のアルティナイ・アスィルムラートワとダーシー・バッセルが主演している映像が最高で、どんな音で何をやるかが全部分かるくらい何度も見ました。それを将来、自分がまさか踊ることになるなんて! 東京バレエ団の初演でニキヤを踊ることになった時に、私もマカロワさんとオルガさんに教わりましたが、憧れのマカロワさんに秘密というかエッセンスを分けてもらえたことは、私にとってもギフトといえる体験でした。その後の別の作品にもすごく生きてきたので、私にとって『ラ・バヤデール』は、特別な作品です。 ヌニェス さらに付け加えるなら、彼女はとても寛大なんです。隠すことなく、最初からすべてを与えてくれるので、リハーサルの前後でまったくの別物になるくらい、ダンサーとしての自分が変わる。おかげでその後はほかの作品に携わっても、違う視点からバレエを考えられるようになりましたね。「彼女だったらこう言うかな」「もっと身体をきちんと使って、と言うかな」とか。オルガ先生も含めて、こういった偉大な指導者と一緒にリハーサルができることは、アーティストにとっては、尽きることのない水を飲ませてもらうような、とてもありがたい経験になります。『ラ・バヤデール』を踊る時、動きや振付から、昔の黄金期のダンサーたちのバレエをすごく思い浮かべるんですね。テクニックがありながら、魂ごと踊る。私にとってはインスピレーションを与えてくれる存在で、彼らの踊り方や、音に対する感応力は神がかっているというか、魔法のようで、まさにゴールデンエイジというべき輝かしい時代のバレエだと感じます。そういった時代を生きたアーティストたちから教わると、自分の心が開かれて、魂が取り出される......そんな感覚を覚えますが、マカロワさんはまさにそんな指導をしてくれる人。全員が同じニキヤを作り出すのではなく、ひとりひとりが自分のニキヤを見つけることを許してくれるのです。 上野 同感です。いまの時代の人たちって、皆さん上手で綺麗なんですけど、魂が見えてこないこともある。マカロワさんから伝承していただいた私たちは、次の世代にも魂の踊りというものを受け継いでいかねばと感じています。昔の時代のダンサーって、本当にいい意味で全員がおもしろいんです。芸術の輝きだったり、ひとりひとりの個性が光っていたあの頃のアーティストたちの何かを、分かっている人が次の世代に伝えていけるといいですね。そうやって未来のバレエ界を輝かせるべきだなと思います。