上野水香×マリアネラ・ヌニェス、『ラ・バヤデール』で初共演したふたりが語るバレエ愛、踊り手としての秘話。
― 水香さんのガムザッティは、ファンの間でも待ち望む声が多かったですが、実際に演じてみての感想はいかがでしょう?
上野 (振付・演出を手がける)ナタリア・マカロワさんには、2009年の東京バレエ団の初演時からニキヤとガムザッティの両方に挑戦しなさいって言われていたのですけど、当時はテクニック的に自信がなくてできなかったんですね。今回、やってみようと決意して、体力的にはすごくハードな役ですが、マカロワ版の「ラ・バヤデール」には、深みがあるから、ガムザッティを演じることが次第に楽しくなっていったんです。世界中で活躍して経験を積み重ねてきたネラさんと、ちょっとお芝居をするだけでもダンサーとしての器量というものをすごく感じましたね。 ヌニェス そうなの! この作品は、経験をきちんと積んだふたりのバレリーナがいることが重要で、バレエを通じてふたりの関係性が見えてくるんです。たとえば、ニキヤとガムザッティが宮廷で直接対決をするファイトシーンがありますが、そこはふたりのパーソナリティが明らかになる場面です。ロンドンでは、ナタリア・オシポワが相手役で、ニキヤとガムザッティを交換しながら演じました。ダンサーにどれだけの器量があるかによって、ふたりの関係性の見え方が変わるのですが、観客にも本当に喜んでいただけました。今回も同じようなことが起こるはずです。
― ニキヤとガムザッティそれぞれの役の解釈についてお聞かせください。
ヌニェス ニキヤはスピリチュアルというか、ピュアで汚れのない世界の人。対してガムザッティは、甘やかされて育った悪女のように見られがちですけど、私はガムザッティのことを"悪"だとは思っていません。ほかの状況下ではまた違った側面もあるに違いないと。ただ作品中のシチュエーションでは、ふたりにとっては悲劇的なものになってしまったんですね。そうした全く異なるバックグラウンドを持つふたりに共通するのが、強い自分を持っていること。ふたりとも強いうえにリアルな女性だから、どちらも演じることが本当に楽しいんです。ひと晩で両方を踊りたいくらい! 上野 ネラさんが言ってるとおりですね。対極しているように見えるけれど、ふたりはともに悲しい運命を背負っていて......。どちらも強さがありながら、すごく純粋。怒ることに対してもまっすぐ立ち向かっていく人たちだからこそ、ぶつかってしまう。私はこれまでガムザッティって意地悪そうなちょっと怖い人っていうイメージを持っていましたが、いざ自分がやるとなると、そんな風にはとても演じられなくて。彼女の背景まで理解して、その人間性に近寄っていけば、本当はとてもピュアで、幸せになることを夢見ているけれども、思いどおりにならないと立ち向かってしまう女性なんだって思えるようになりました。自分を抑えきれないシーンでも、プライドとか気品を失うことなく行動に移していくところをきっちり演じたいですね。凛とした女性として演じてみると、これまでに私が感じてきたガムザッティ像とはちょっと違う感じになるんじゃないかなと思います。