上野水香×マリアネラ・ヌニェス、『ラ・バヤデール』で初共演したふたりが語るバレエ愛、踊り手としての秘話。
東京バレエ団のゲスト・プリンシパルを務める上野水香と、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル、マリアネラ・ヌニェスが、7月27日に開幕した世界バレエフェスティバルの特別プロ『ラ・バヤデール』で初共演を果たした。伝説のプリマ、ナタリア・マカロワが振付・演出を手掛ける名バージョンとして知られる本作で、恋敵の役柄を演じたふたりは、マカロワファンという共通点もあって、すっかり意気投合。作品のこと、お互いのこと、バレエライフについてたっぷり語ってもらった。 【写真で見る】上野水香とマリアネラ・ヌニェスが競演した『ラ・バヤデール』舞台の様子
― ヌニェスさんは、世界バレエフェスティバルには3回目の出演、東京バレエ団にゲストダンサーとして出演するのは今回が初めてですね。
マリアネラ・ヌニェス 世界バレエフェスティバルに最初に出演したのは1997年、14歳の時で、2回目が2009年でした。その後はコロナ期間だったのと、前回2021年の際は、腰を悪くして参加できなかったんです。このフェスティバルに参加することは私の目標だったので、それが再び叶ってとてもうれしいです。 東京バレエ団は昔からよく知っているカンパニーですが、バレエに対して真摯に取り組む姿勢に、とても感銘を受けています。歴史があり、伝統を大切にされているところも本当に素晴らしい。実は、東京バレエ団にゲストダンサーとして出演することが長年の夢だったんです。いままで待った甲斐がありました。というのも、以前より自分は成熟し、これまでに積み重ねてきた経験を観客の皆さんにお届けできるでしょうから、きっと特別な瞬間を感じていただけると思うのです。願いというものはすぐに叶わなくとも、忍耐強く頑張り続けることで、どこかの時点で夢と自分の道がクロスする時がやってくるんです。私は現在42歳で、ロイヤル・バレエ団には26年間在籍していますが、この長いキャリアをもってしても、待ち続けてきた夢が叶う瞬間がやってくるのだから、観客の皆さんにとってもこれはいいメッセージになるんじゃないかしら。
― 今回おふたりは、『ラ・バヤデール』で初共演されますが、ヌニェスさんがニキヤ役、水香さんはガムザッティ役に初めて挑まれます。リハーサルで実際に対峙してみての感想をお聞かせください。
上野水香 経験が実り、それが舞台に生きてくるというのは、私自身もすごく実感するところで、ネラさん(編集部注:ヌニェスの愛称)とは同じような感覚を持っているなと感じましたね。私は現在46歳で、それこそ長年忍耐を持ってやっているところもあるので、同じような思いをしているふたりが、こうして対極する役で舞台に立てることは、すごく大きな意味があるように思います。 ヌニェス 『ラ・バヤデール』は、古典バレエには珍しく、女性の主役がふたりいる作品ですが、そのメインキャラクターを水香さんとシェアできることがすごく光栄です。 上野 私もこれまでにニキヤを何度もやらせていただいていますが、ネラさんのニキヤに対する解釈がとても自由だなと感じました。自分だけにしか出せない表現を、パ・ド・ドゥの中でもすごく出されていたので、これは本当に価値のある舞台になるなと確信しました。 ヌニェス 水香さんがガムザッティを踊ることが、若い世代にとっていいお手本になるんじゃないかしら。なぜなら、ガムザッティは本当に大変な役なんです。それがキャリアを経て、初めて演じられること自体が本当にチャレンジング! 私もニキヤとガムザッティの両方を経験してきましたが、安全領域から抜けて、新しい役をやること、特にガムザッティのような大役に挑むのは本当に大変です。だからそのチャレンジ自体がとても素晴らしいです。自分をプッシュし続け、境界線をなくして立ち向かっていく姿勢は、若い世代への強いメッセージになるはずです。