[特集/改革者クロップの軌跡 01]CL&プレミア制覇で一時代を築いた クロップとリヴァプール、蜜月の9年間
ラストシーズンに遠藤が加入 リーグ杯優勝で指揮官を送り出す
継続は力なりという言葉がある一方で、継続は停滞を招くという考え方もある。監督就任8年目となる22-23はまたもケガ人が続出し、自分たちのサッカーが思うようにできなかった。高品質なオプションもなく、苦しい戦いを続けた。CLはラウンド16、FA杯とリーグ杯はともに4回戦で敗退。プレミアでもシーズン途中から指揮を執った初年度を除き、もっとも低い5位でシーズンを終えた。 前線ではマネが移籍し、ジョタ、ルイス・ディアスが負傷により離脱した時期があった。期待された新加入のダルウィン・ヌニェスはチームそのものが精彩を欠くため、自身も輝けず。苦しいチームを引き上げるほどの爆発力な個人能力の高さもなかった。 中盤ではファビーニョ、ヘンダーソン、ミルナー、チアゴ・アルカンタラといった経験ある選手たちが健闘したが、スピード&パワーを含む強度の高さが求められるなかトップコンディションを維持できない。クロップは22歳のカーティス・ジョーンズ、20歳のハーヴェイ・エリオット、18歳のステファン・バイチェティッチなどをピッチに送り出したが、すぐに成果は出なかった。 前線、中盤の質の低下はゲーゲンプレスの機能不全を意味し、そうなると最終ラインもきつい。アレクサンダー・アーノルドは守備で拙いプレイが目立ち、評価を下げることに。冬の移籍期間にコーディ・ガクポを獲得したが、ヌニェスと同じくチーム状況を一変するようなスーパーな力はなく、苦戦するチームのなかで自身も苦戦した。 こうした結果を受けて、いよいよ迎えた9年目、23-24のシーズン前には劇的な動きがあった。フィルミーノ、ヘンダーソン、ミルナー、ファビーニョといった一時代を築いた選手たちが揃って退団。中盤は総入れ替えとなり、下馬評は決して高くなかった。 それでも、クロップのスタイルはチームにしっかりと植え付けられており、シーズンがはじまると低迷した前年度を上回る質の高いパフォーマンスでKOPを落胆させなかった。新戦力であるアレクシス・マクアリスター、ドミニク・ショボスライがすぐにフィットし、クロップのスタイルをピッチで体現した。 6番のポジション、アンカーの人材を探し求めるなか遠藤航を獲得。これで23-24バージョンのリヴァプールが完成した。アンカーに遠藤、インサイドハーフにマクアリスターとショボスライ。この中盤は攻守両面で強度が高く、7節トッテナム戦に敗れただけで前半戦をわずか1敗で乗り切った。 ただ、クロップはもうリヴァプールで長い年月を過ごしていた。リーグ杯で決勝進出を決めた3日後の2024年1月26日にシーズン終了後に監督を退任することが発表された。本人が寄せたメッセージのなかには、「エネルギーがなくなってきてしまったんだ」という一文があった。 去り行く指揮官に向けて、選手たちはリーグ杯のタイトルをもたらした。FA杯、EL、プレミアも優勝を狙える位置にいて、4冠も見据えていた。しかし、絶対的なエースだったサラーに以前のような決定力はなく、ヌニェス、ルイス・ディアス、ガクポも決めてほしいところで決められない。 FA杯準々決勝は延長戦のすえにマンUに競り負け、ELではアタランタに完敗を喫した。残されたのはプレミアのみとなったが、マンC、アーセナルと三つ巴の争いになるなか、終盤戦になって失速して優勝争いから離脱した。 シーズンは異なるが、クロップはリヴァプールでの9年間でプレミア、FA杯、リーグ杯、CLに優勝を飾った。情熱を持って選手を指導し、ときにサポーターと一緒になってチャントを歌い、さらには毎年のようにチームをタイトル獲得へ導いたクロップは、その陽気なキャラクターでKOPから厚く信頼され、愛されてもいた。 もう、来シーズンはクロップが率いるリヴァプールではない。先を見据えればどんなチームになるか楽しみだが、過去を振り返ればワクワクさせてもらった思い出がよみがえる。この9年間のリヴァプールは、記録にも記憶にも残るチームだった。 文/飯塚 健司 ※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)第294号、6月15日配信の記事より転載
構成/ザ・ワールド編集部