カプレーゼの拡大解釈、定期的なSNSバズも…モッツァレラチーズは家庭にいかに定着したのか?
物価高、ワインの売上減少などの影響から、苦戦を強いられているチーズ市場。そのなかで、堅調に推移しているのがモッツァレラチーズをはじめとした料理にも活用できるチーズだ。特にモッツァレラは、家庭料理にちょい足しすることで見映えも良く、料理や食事の質を上げてくれるものとして重宝されている。元々「外食で食べる」イメージの強かったモッツァレラチーズは、家庭の食卓にいかに定着・浸透していったのか。シェアNo.1「クラフト フレッシュモッツァレラ」ブランドを持つ森永乳業の担当者に話を聞いた。 【画像】自分でかわいくデコれる! ミニトマトとモッツァレラでカプレーゼ飴
■チーズケーキ、イタ飯ブームを機に、1998年に家庭用モッツァレラチーズを発売
チーズにはプロセスチーズとナチュラルチーズがあるが、ナチュラルチーズは発酵や熟成が進むにつれて味の癖や臭いが強くなるため、苦手な人も多い。しかし、その中でもモッツァレラチーズの味はシンプルで癖がなく、ナチュラルチーズが苦手な人でも食べやすいという利点がある。いろいろな料理に使われるが、中でもトマトやバジルと合わせた「カプレーゼ」は最も王道な食べ方として知られている。 森永乳業では1933年に「森永チーズ」を発売し、1970年にクラフト社と提携。1970~80年代は、国内需要に合わせて、直食系のプロセスチーズをラインナップに揃えていた。 「当時の商品ラインナップとしては、スライスチーズ、箱入りタイプのカルトン、個包装のポーションなどがありました。ポーションは、今だと4個、6個などが主流ですが、当時は2個から48個の”パーティーダイス”までありました」(森永乳業株式会社 チーズ事業マーケティング部 伊佐地祐子さん/以下同) その後、1980年代後半にチーズケーキ、1990年代に「イタ飯」(イタリア料理)のブームが起こり、ナチュラルチーズの需要が高まってくる。「この洋食化の流れは大きなチャンス」だと捉えた同社は、1992年に「小さなチーズケーキ」シリーズを発売。さらに1998年に業務用のモッツァレラチーズ、翌1999年に家庭用の「クラフト フレッシュモッツァレラ」を発売した。 「イタ飯ブームの頃、外食や海外旅行でカプレーゼを食べて感動したという方がたくさんいらっしゃいました。そこで『お店で食べるもの』というイメージの強いモッツァレラチーズをご家庭でも味わっていただけるようにと家庭用を開発しました」 業務用の商品は限られた量の生産だったため、家庭用の製造開始に当たって工場に新たなラインを作り、国産ナチュラルチーズの増産体制を整えた。 「当初はイタリアの技術者をお招きしてお話を伺い、見様見真似で技術を習得したそうです。ナチュラルチーズは菌の制御がとても難しいのですが、当社の社内基準値は非常に厳しいレベルになっており、社内基準値以下に菌数が保てるように、品質を担保し続けることにすごく苦労したと聞いています」 品質管理のために、チーズを保護する水についても研究を重ねた。この水はチーズのみずみずしさを保ち、型崩れを防ぐためのもの。この水の配合を何度も検討した結果、保存料を使わずに、現在31日間美味しさをキープすることができるようになった。 さらにモッツァレラチーズ特有のモチモチ食感だが、これはチーズの組織を形成するタンパク質とカルシウムが関与している。「カルシウムがタンパク質の間をつないでネットワークを形成しているのですが、そのネットワークが密だと硬く、粗いと柔らかくなります。モッツァレラのモチモチ食感を表現するために、カルシウムとタンパク質の量やバランスを調整し、何度も試作を重ねていきました」。