語った人生論。なぜ阪神の西岡剛はトライアウトに参加したのか?
プロ野球12球団合同トライアウトが13日、福岡の「タマホームスタジアム筑後」で投手29人、野手19人の合計48人が参加して行われた。有料観覧席が設けられたスタンドは5536人の超満員。ファンは戦力外の男たちへ熱い声援を送ったが、ひときわ大きな拍手を受けていたのが2010年に首位打者を獲得するなどした“最年長”西岡剛(34、阪神)だ。復帰ラブコールを送ったロッテは獲得に消極的で、現状、西岡の獲得に興味を抱いている球団はないが、西岡は独立リーグのユニホームを着てまで野球を続ける考えであることを明らかにした。西岡のトライアウト参加には彼の人生観が詰まっていた。
福岡に青い空が広がっていた。午前10時前。有料観客席が設けられたスタンドはすでに満席となり、入場制限がかかっていた。シートノックを受けるためセカンドのポジションに走った西岡は、何かを告げるかのように右の掌を、その人工芝の上にのせた。 ハイライトは、ロッテ時代に共に日本一を味わった後輩の左腕、成瀬善久(33、ヤクルト)との対決だった。 トライアウトは、カウント1-1から投手は打者3人と対戦、打者は守備をしながら4打席から5打席立つ進行になっているが、西岡は、成瀬との顔合わせがあることを球場に着いてタイムスケジュール表を渡されて初めて知ったという。 西岡は、選手ロッカーで成瀬にこう話しかけた。 「思い切ってお互いにやるべきことを必死でやろう。思い切って来い!俺も真剣に行く!」 133キロのストレートだった。 快音が響く。打球は左中間を真っ二つに割った。 「僕が打席に立ち、マウンドには成瀬。思うことはありました」 西岡が先に2010年オフにロッテからメジャーに挑戦。成瀬は、その4年後にFAでヤクルトへ移籍した。2度の日本一、北京五輪を経験した2人が、同時に戦力外となり、こうして、筑後のトライアウトで再会するのも不思議な運命の巡り合わせだった。 成瀬もまた「しっかり投げないといけないという緊張感があった。打たれたくはなかったけど、こういう緊張感の中で対戦できたというのは幸せ。よかったなと思う」と、かつて共に栄冠を味わった西岡との対戦に感慨深けだった。 だが、西岡のヒットは、この1本だけ。元楽天のコラレスにはハーフスイングで三振。元巨人の篠原慎平の147キロのインローのストレートには手が出ずに見逃しの三振。元広島のオスカルとの最後の打席も141キロのストレートに詰まってショートゴロ。 ネット裏にズラっと陣取っていた各球団の編成担当は、詳細なデータを取っていたが、西岡の一塁への到達タイムは「4.41」秒。右打者のタイムとすれば、オリックスのロメロくらいで、かつてのスピードは、もうなくなっていた。それが34歳、西岡の置かれた現実だろう。 それでも、打席に立つ度に大声援を背中に感じた西岡は、「ここまで色々と怪我をして、リハビリする間も、ファンの声援や手紙に常に支えてもらってきた。今日も(僕だけでなく)トライしている全員が、ファンに支えられているんだなと感じた」と、感謝の思いを口にした。