「今もずっと驚いています」 大作時代劇のメインキャストに抜擢された「斬られ役」が語る殺陣の美学
東映京都撮影所(京撮、京都市右京区)の殺陣技術集団・東映剣会の「斬られ役」本山力(55)が、公開中の大作時代劇「十一人の賊軍」でメインキャストに抜擢(ばってき)され、鮮烈な印象を残している。「斬られにいくのでなく、斬ろうとして斬られる。まだ戦えると気持ちを残して朽ちていく」。京撮で脈々と受け継がれてきた殺陣の技と美学をスクリーンに刻んだ。 【写真】大作のメインキャストに抜擢された本山力 「義によって、お国に逆らい奉る」 最終盤、砦(とりで)を守る賊たちの中で、唯一素性がはっきりしなかった“爺(じ)っつぁん”が名乗りを上げる。戦う理由に筋が通り、その存在が大きく立ち現れる。刀から槍(やり)に持ち替えて、新政府軍の若造たちを追い詰める。鬼のような気迫が、スクリーンを満たしていく。 「生き残るために戦うのでなく、死に場所を探している男。ごっついええ役なんです」。時代劇の世界に足を踏み入れて30年あまり、こうした大役は初めて。山田孝之、仲野太賀ら、今をときめく俳優たちと名を連ねる。 「本山さんって、槍は使えます? 一度見せてもらえませんか」 昨年、京撮で行われた映画「碁盤斬り」(今春公開)の撮影の折、白石和弥監督に声をかけられた。「何かのシーンの参考にするのかな」。後日、手渡されたシナリオのコピーを読み上げつつ、動きを組み立てて披露した。やがて、手元に台本が届き、大作のオーディションだったと気づいた。「これってどういうことなんやろ、と。今もずっと驚いてます」と笑う。 多くの俳優は事前に殺陣の訓練を重ね、シーンに必要な動きに対応できるようにして撮影に臨むが「僕らは役を与えられて、その場で『こう動いて』と言われたら、『できます』と言えないといけない」。京撮育ちの自信と自負がのぞく。 現場では、実戦のリアルさを再現する意図で、通常の立ち回りよりも低い姿勢で、無駄のない動きを求められた。「ただ、あんまり低くすると、足元がもたつくように見えて、格好悪くなる」。