「今もずっと驚いています」 大作時代劇のメインキャストに抜擢された「斬られ役」が語る殺陣の美学
アクション担当のスタッフたちと相談しながら、やや上半身を起こすように動きを調整。夜間の過酷な撮影も乗り切った。 撮影を見たスタッフや俳優からは「むちゃくちゃいいですね」などと、興奮気味の声も聞こえた。腕一つで周囲を納得させていくさまは、作中の爺っつあんの姿とも重なる。「僕はできることを一生懸命しただけなので」と謙虚に語る。「15年くらい前までの京都なら、これくらいはできて普通なんです。先輩方は本当にすごいので」 ■「神様」の背に学んだ技と心 忘れられない光景がある。とあるテレビ時代劇での立ち回り、「5万回斬られた男」福本清三(故人)が、主演の高橋英樹が振るう刀に触れんばかりに近づいた。ぎりぎりにかわせる確信があればこその技術。「ここぞという時に、毎回すごいものを見せられる。圧倒されてました」 京都・伏見育ち。「仮面の忍者赤影」「暴れん坊将軍」「三匹が斬る」など、子供の頃からテレビ時代劇は身近だった。日吉ケ丘高を卒業し、22歳でエキストラ専門の事務所に所属。京撮に出入りするようになった。 1990年代初め、テレビ時代劇を中心に撮影所は多忙を極めた。斬られ役の俳優は引っ張りだこだが、逆に殺陣に入れないと食べていくのは難しい。出演が決まっていても、実力不足なら容赦なく門前払いされることもあった。 自己流で稽古し、殺陣師に教えを請い、撮影現場をのぞいては研さんを続けた。斬られた後の死体役から、主役に最初に斬りかかる役、刀を交わす役へと経験を重ねていった。 剣会から声がかかったのは40歳のころ。福本や木下通博(故人)や峰蘭太郎(76)ら「神様みたいな」斬られ役が集う。「個性的で、それぞれに光る技術を持っている。僕なんかはまだまだ」。気が引けたが、「あんたみたいに勢いがある者がほしいんや」の言葉に腹をくくった。 先輩の背から学ぶ日々。が、意欲に反して撮影が減った。2000年代後半、地上波のテレビ時代劇が激減。