なぜJ2群馬は天皇杯で前回覇者の浦和を破る”ジャイキリ”を起こせたのか…古巣を知る大槻監督が仕掛けた策略とは?
天皇杯3回戦の16試合が22日に行われ、J2のザスパクサツ群馬が1-0で前回覇者の浦和レッズを破る大番狂わせを起こした。ホームの正田醤油スタジアム群馬に浦和を迎えた群馬は、前半35分に乾坤一擲のカウンターを発動。FW髙木彰人(24)が決めた値千金の先制ゴールを、一丸となって守り抜いた。2020シーズンまで浦和を率いた大槻毅監督(49)は「選手たちが戦ってくれたこと、頑張ってくれたことに尽きる」と古巣を撃破した要因をあげた。
「選手たちが戦ってくれたこと、頑張ってくれたことに尽きます」
万感の思いを込めて、大槻監督は試合後の第一声を発した。 「破りました」 低く抑えられたトーンには、指揮官をして「当然、力の差はあった」と認めさせた、愛着深い古巣へのリスペクトの思いが込められていたのか。 試合を終始支配され、後半6分には決定的なシュートを放たれるもクロスバー直撃で救われた。対照的に群馬が放ったシュートはわずか3本。そのうちの1本がゴールネットを揺らし、後半17分からは4バックを5バックに変えて守り通した。 5バックへのスイッチを、大槻監督は「想定内だった」と明かした。つまり、先にリードを奪う展開も青写真のなかに描かれていた。大会連覇を狙った浦和を零封し、3回戦、ベスト32で敗退させた要因は何だったのか。再び低い声が響いた。 「選手たちが戦ってくれたこと、頑張ってくれたことに尽きます」 値千金の決勝点も、日々の練習がそのまま具現化された。 浦和のMF関根貴大(27)が敵陣中央で左サイドからカットインし、MF大久保智明(23)へ横パスを放った。ここで大久保の背後にいたMF天笠泰輝(22)が、思い切りよく前へ飛び出してカット。中央のFW平松宗(29)へ託されたボールは、群馬から見て右サイドタッチライン際に開いたゲームキャプテン、MF田中稔也(24)にわたった。 この瞬間、右サイドバックとして公式戦2度目の先発を射止めた高卒ルーキー、岡本一真(18)は「いまがチャンスだ」とひらめいた。ハイポゼッションを志向する浦和のパスを寸断させたときに、攻守をひっくり返す隙が生じるからだ。 「ずっと守っていたなかで、いい感じでボールを奪えたので。トシくん……田中選手がボールを持った瞬間にパスが出てくると思ったので、思い切りよく前へ走りました」 ゲームキャプテンを「トシくん」といつものように呼び、慌てて「田中選手」と言い直したのはご愛敬だ。群馬県の強豪・前橋育英高から加入したルーキーはしかし、田中の内側のレーンを堂々たる走りっぷりで縦へ抜け出していった。 「カウンターの練習で、スプリントをして相手のゴールに迫っていくプレーをけっこう練習していたので、そこを上手く出せたと思う」 こう振り返った岡本はハーフウェイライン付近から、田中から託されたボールをあっという間にペナルティーエリアの右角あたりまで運ぶ。すかさず真横へ送ったパスは中央へ走り込んだ髙木には合わなかった。しかし、反対側の左角あたりで、これも長い距離を走ってきた天笠が浦和の選手ともつれる形で上手くつぶれた。 次の瞬間、天笠の体に当たったボールが髙木の目の前に転がってきた。 「天笠が後ろでいい感じでつぶれてくれたし、ペナルティーエリアのなかだったので、あそこはもう思い切って打とうと。それがよかったと思っています」 こう振り返った髙木は、体を反転させながら迷わずに右足を一閃。浦和のキャプテン、GK西川周作(36)のダイブも届かない強烈な一撃をゴール左隅に突き刺した。