なぜJ2群馬は天皇杯で前回覇者の浦和を破る”ジャイキリ”を起こせたのか…古巣を知る大槻監督が仕掛けた策略とは?
浦和の暫定監督に就任した2018年4月。それまでと同じではダメ、何かスイッチを入れようと髪型をオールバックに変え、背広姿で強面の表情を作った姿が、ファン・サポーターやメディア、そして選手から「組長」や「アウトレイジ」と歓迎された。 正式に監督に就いた2019年5月以降も独特の風貌は継続されたが、指導者としての素顔は相手の分析力に長け、ピッチの内外で誰よりも熱く、選手を鼓舞するモチベーターでもある。群馬の指揮を執る今シーズン。髪型はツーブロックに、服装はジャージーに変わったが、本質は何も変わっていなかった。 古巣と対峙する自身の存在もあり、注目度も増す浦和戦の付加価値を説いて、選手たちのハートに巧みに火をつけた。ベンチ前で選手たちを鼓舞し続ける熱い姿も変わらない。それでも、大槻監督自身は「気負って戦う部分はなかった」という。 「長くいたクラブですけど、僕は普通に戦いました。カテゴリーも違うので、浦和レッズというクラブは僕にとっては敵ではありません。いい思いをさせてくれたクラブだといつも思ってきたし、ファン・サポーターのみなさんを含めて、本当に心からリスペクトしている。このようなチームと、監督として戦える機会はなかなかない。なので、選手たちとともにいい準備をして、勝つことだけを考えて今日まで過ごしてきました」 禁止事項だと試合中に場内アナウンスで何度も諭されてもチャントや野次を繰り返し、実際にジャイアントキリングを起こされた直後には、髙木のヒーローインタビューをかき消すほどのブーイングをとどろかせたファン・サポーターを含めて、大槻監督はいまも抱き続ける古巣への大きな恩を、会心の勝利とともに返した。 そして、オンライン会見を終えた直後に、もっとも大きな声を響かせた。 「選手たちが本当に頑張ってくれました。戦ってくれたことをぜひお伝えください」 主役は自分ではない。攻守で準備したものを雨中のピッチで精いっぱい具現化し、歴史を作ったザスパクサツ群馬の選手たちだと、指揮官は最後に笑顔で強調した。 (文責・藤江直人/スポーツライター)