じつに、恐るべき「太陽フレア」による宇宙線…なんと、地球誕生時には「もっと頻繁に起こっていた」かもしれない
「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた」 圧倒的人気を誇るこのシナリオには、困った問題があります。生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロに近いのです。ならば、生命はなぜできたのでしょうか? 【画像】宇宙線が「生命の材料」を生成していたのか…?太陽と地球の姿 この難題を「神の仕業」とせず合理的に考えるために、著者が提唱するのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめたのが、アストロバイオロジーの第一人者として知られる小林憲正氏の『生命と非生命のあいだ』です。本書刊行を記念して、その読みどころを、数回にわたってご紹介しています。 今回は初期の地球でおこった生命誕生に、宇宙線がどう影響したかを見ていきたいと思います。折しも、太陽フレアの活動が活発になり、その影響が懸念されていますが、初期の地球ではどうだったのでしょうか。早速見てみましょう。 *本記事は、『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
加速器実験でアミノ酸ができた!
筆者が生命の起源についての研究を始めたのは、東京大学で博士号を取得したあと、1982年から1986年まで米国メリーランド大学化学進化研究所に博士研究員として研究をしていた頃のことです。筆者は、進化研究所の4つの研究室(地球化学、惑星化学、有機化学、生化学)のうち、惑星化学研究室を担当し、主としてさまざまに組成を変えた惑星大気から有機物を合成していました。まさに、ミラーの実験の発展版といえます。 帰国後、東京工業大学教授(当時)の大島泰郎(たいろう)先生から、「東工大にある加速器を使って何か実験ができないか」とのお誘いをいただきました。加速器とは、陽子などの粒子にエネルギーを与えて非常に速い速度まで加速する装置で、通常は原子核物理の研究などに使われています。 私はそれまで、ガンマ線を照射する実験は経験がありましたが、加速器を使ったことはありませんでした。まずは、加速器を使うことが何のシミュレーションになるかを考える必要がありました。 文献で知っていたのは、メルヴィン・カルヴィンたちの実験などで、電子線をあてると原子核から電子が飛び出してくる壊変といわれる現象のシミュレーションのために電子線を出すのに使っていたくらいでした。 メルヴィン・カルヴィンは、米国の化学者。光合成反応における代表的な炭酸固定反応である「カルビン・ベンソン回路」を、米国の生物学者アンドリュー・ベンソンらと発見した。その経緯と生命誕生への影響は、『生命と非生命のあいだ』に詳説した。 そこで、加速器を担当していた川崎克則博士に電子線は出せるかを尋ねると、「これはバン・デ・グラーフ型の加速器なので、プラスの電荷のものしか加速できません。最も簡単に出せるのは陽子線です」とのこと。そこで、陽子線は何に使えるのかを考えてみました。 陽子あるいは水素イオンは、宇宙線に最も多く含まれているものです。宇宙線は宇宙空間を飛び交っている高エネルギーの放射線で、地球にも常時、飛んできています。ということは加速器による陽子線は、原始地球にやってきた宇宙線の模擬に使えるかもしれないと考えました。
【関連記事】
- 【新シリーズ】なんと、この「地球の生命」が持つアミノ酸は「特別な比率」だった…地球に飛来した「マーチソン隕石」が、生命科学者に投じた衝撃の波紋
- スーパーフレアが地球生命を生んだのか…? じつは、宇宙線が「生命の材料」を生成していた「衝撃の事実」
- 「99:1」か、「それ以下」か…2種類の炭素の比率を調べたら、なんと、35億年どころか、さらに古い「生命の痕跡」が次々と見つかった
- これは「物質から生命が生まれる瞬間」かもしれない…地球生命に絶対必要なアミノ酸が、なんと「わずか数日」でできてしまった「衝撃の実験」
- なんと日本隊だけで「1万7000個」も発見した…!奇跡の1969年に見つかった「大量の隕石」からの新発見と「残念な結果」