じつに、恐るべき「太陽フレア」による宇宙線…なんと、地球誕生時には「もっと頻繁に起こっていた」かもしれない
宇宙線の評価は低かった
しかし文献をみると、原始地球上には太陽の紫外線や雷など、さまざまなエネルギーが届いていたと考えられるなかで、宇宙線の評価はとても低いものでした。たとえば、ミラーとオーゲルの共著『生命の起源』(野田春彦訳)にはこうあります。 「現在では宇宙線のエネルギーは無視でき、過去にも重要となるほどあったとは思えない」 そのためか、原始大気中での有機物合成を模した実験で、宇宙線をエネルギー源として考慮したものはほとんどありませんでした。
加速器での実験でアミノ酸が生成された
とはいえ、せっかくの機会ですので、とりあえず実験してみることにしました。反応容器をデザインして、そこに放電実験と同じ窒素ガスとメタンガスと水を入れて、加速器で陽子線を照射してみました。そうして得られた生成物を加水分解して分析すると、予想以上に多くのアミノ酸ができていたのです。 ならば、ということですぐに、メタンを一酸化炭素に替えて加速器実験を行いました。当時、東京大学の松井孝典(たかふみ)や米国ペンシルバニア州立大学のジェームズ・カスティングらが、原始地球の大気には一酸化炭素がかなりあったかもしれない、という理論を言いだしていた頃でした。 ところが火花放電では、メタンを一酸化炭素にするとアミノ酸の生成量が極端に少なくなってしまうのです。そうしたわけで、少し後ろめたさをおぼえながらメタンを実験に使っていたのですが、この加速器実験ではメタンを一酸化炭素に替えて陽子線を照射しても、メタンのときとほぼ同じ量のアミノ酸ができていたのです。これはいける、と思いました。 学会でこの結果を発表したところ、宇宙線が生命の材料をつくったかもしれないということで広く一般の人々の関心をよび、新聞にも取り上げられました。それを見て、東京大学宇宙線研究所(当時)の斉藤威(たけし)博士が声をかけてくださいました。
アミノ酸が生成は、エネルギー量に比例した
当時、東京都の田無市(現・西東京市)にあった宇宙線研究所と同じキャンパスには、原子核研究所の加速器がいくつかあり、バン・デ・グラーフ加速器よりも大型なので、それらを使って共同研究をしようというのです。 加速器が大型になると、照射される陽子線のエネルギーも高くなります。宇宙線研究所で行った実験では、それらの陽子線は、ガスを入れた容器をほぼ素通りしました。しかし、それでもいくぶんかのエネルギーをガスに落としました。そして、そのエネルギー量に比例して、アミノ酸が生成することがわかったのです。 しかもこの結果は、陽子を電子やヘリウムイオンに替えても同じでした。ということは、宇宙線の入ってくるところでは、どこででもアミノ酸ができる可能性があるということです。 エネルギーに比例してアミノ酸ができるということは、この実験ではアミノ酸はストレッカー合成ではない道筋でできることを示しています。もしストレッカー合成であれば、まずシアン化水素、ホルムアルデヒド、アンモニアなどができ、その後、それらが反応してアミノ酸になるわけで、エネルギーに比例してできるという実験事実とは矛盾するからです。 なお、核酸については、一酸化炭素、窒素、水に陽子線を照射することにより核酸塩基ができるかを調べてみると、ウラシルが他のものより多くできていることがわかりました。
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