なぜ福岡堅樹は7人制ラグビー東京五輪出場をあきらめ将来医師の人生設計図を貫徹することを決断したのか?
7分ハーフの試合を1日に数試合も行うためのスタミナも養わなければいけない。鍛え抜かれた筋肉の鎧をそぎ落とし、爆発的な加速から「フェラーリ」と形容されたスピードを何度も繰り出すための肉体に作り変えていた過程で、新型コロナウイルスの影響を受けて東京五輪が延期された。 肉体を15人制仕様に戻して来季のトップリーグを戦い、再び7人制仕様に作り変えながら複数回にわたる合宿で練習生から代表候補、そして東京五輪代表に名前を連ねるための挑戦は、医学部入学を成就させるための受験勉強と両立できるほど甘くはない。福岡は会見でこんな言葉を紡いでいる。 「本来であれば7人制の合宿へ行っている時間を勉強に充てていくことで、よりスムーズにセカンドキャリアへ移行できるのではないか、と。いままで以上に勉強の方に比重を置きながら、(パナソニックで)ラグビーとの両立ができると考えれば、タイミングとしてはむしろよかったと思っています」 これから受験を控え、医学生になってからの勉強や研修などもあることから、専門分野を含めて医師になった自分をまだ想像できないという。それでもラグビーを通して少しずつ形成されてきた理想の姿は、新型コロナウイルス禍のなかでより輪郭がはっきりしてきたと笑顔で明かした。 「アスリートとしての経験を、アドバンテージとして生かせる分野でやっていきたい。自分はアスリートの気持ちもわかるので、怪我を治すだけでなく、メンタル面にも寄り添える医師になれればとずっと思ってきました。いまはさまざまなところで医療従事者が活躍していて、大変な思いをされている話を僕自身も直接聞く機会がありました。どのような世の中になっても医療従事者が必要とされ続けるように、自分もそのような存在になっていきたい、という思いがさらに強くなりました」
福岡が最後の勇姿を見せる可能性が高い来季のトップリーグは、来年1月に開幕するプランが浮上しているものの、具体的にはまだ何も発表されていない。ただ、福岡の離脱後も連勝を続け、首位に立ちながらシーズン途中で中止となった2020シーズンの続編を、つまりは福岡が加入した2016年以降で手にしたことのない優勝を、かけがえのない仲間たちと分かち合いたいと屈託なく笑った。 「後悔のないように、自分もチームも最後には笑って終えられるシーズンにしたい」 勝利を重ねるためには得点が、トライが必要になる。質疑応答の最後に「ならばトライ王を目指しますか」と聞かれると、いかにも福岡らしい答えが返ってきた。 「こだわりはいっさいありません。自分のトライよりも、チームが勝つことの方がすごく大事なので」 謙虚に、献身的に、そして未来だけを見つめて一直線に。胸中にほんのわずかながら残る東京五輪への心残りを、苦楽をともにした代表の仲間たちのメダル獲りへエールを送り続けることで埋めながら、思い描いてきた夢を具現化させるためのルートを福岡はトップスピードで駆け抜けていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)