「成果ゼロ」日中首脳会談で透けて見えた習近平主席のホンネ
石破首相との「作り笑い会談」の成果は
今回の石破首相との初めての会談は、2番目の「作り笑い会談」だった。そうなると、自ずと会談の「成果」は乏しい。 問題は、握手した際の石破首相の所作だった。先月10日にラオスのASEAN(東南アジア諸国連合)関連会議で、李強中国首相と握手した際は、キッと口を結んで厳しい表情をしていて、好感が持てた。 今回もそうした表情を保ったのはよかったが、習主席が突き出した右手を、両手で揉むように掴んでしまった。これは属国のリーダーが、宗主国のリーダーに対して取る所作であり、中国に毅然とした態度を取ることが前提の日本としてはよろしくない。 日中首脳会談で、日本外務省の発表によれば、石破首相は習主席に対して、次の6つの要求を述べた(番号づけは筆者)。 (1) 石破総理大臣から、中国による日本産水産物の輸入回復を早期に実現するよう求めました。 (2) 石破総理大臣から、日本産牛肉の輸出再開、精米の輸出拡大に係る当局間協議の早期再開を求め(中略)ました。 (3) 石破総理大臣から、尖閣諸島を巡る情勢を含む東シナ海情勢や中国軍の活動の活発化につき、深刻な懸念を伝え、中国側の対応を求めました。 (4) 石破総理大臣から、蘇州や深圳での日本人学校の児童等の殺傷事件に関し、在留邦人への安全対策強化を要請しました。 (5) 石破総理大臣から、台湾について、最近の軍事情勢を含む動向を注視している旨伝えつつ、台湾海峡の平和と安定が、我が国を含む国際社会にとって極めて重要である旨強調するとともに、南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区等の状況に対する深刻な懸念を表明しました。 (6) 石破総理大臣から、拘束されている邦人の早期釈放を求めました。 これに対し、日本外務省の発表によれば、(1)は、「両首脳は、ALPS処理水の海洋放出と日本産水産物の輸入規制に関する発表を両国できちんと実施していくことを確認」したという。ここで言及している「発表」とは、両国で9月20日に発表された「合意文」のことを指す。 だがこの合意文、日中双方が発表した内容が異なっているのだ。そもそも合意文のタイトルからして、「日中間の共有された認識」(日本側)、「中日双方が福島第一原発の核汚染水の海洋排出問題で達した共通認識」(中国側)と、大きく違う。 前文とそれに続く4項目も、微妙に内容が異なっている。例えば、4項目目の結論部分は、日本側では「日本産水産物の輸入を着実に回復させる」と記されている。それに対し、中国側は「日本産水産物の輸入を徐々に回復させていく」。 しかも中国側は、「徐々に回復させていく」前提として、「IAEAの枠組みの下での長期的、国際的な独立したサンプリングなどのモニタリング活動に、有効に参与していく」ことと、「その活動を実施した後、科学的根拠に基づいて関連措置の調整に着手」することを挙げている。中国側の発表文を読む限り、中国側が同意したのは「回復させていくという方向性」であって、「着実に回復させる」ことではない。つまり、輸入再開まではまだまだ長い道のりなのだ。 習近平主席は今回、この長い道のりを「両国できちんと実施していくことを確認」したにすぎない。今回新たに進展したことなどないのだ。石破首相自身、15日の会見でそのことを記者に問われて、「この発表の内容を、両国できちんと実施をしていくということで一致をしたものでありまして、いつ再開するということについて、具体的に決したものではございません」と答えている。 石破首相はその一方で、「日本産水産物の輸入回復を定めましたこの発表の実施について、習主席自身が言及したことは、非常に重いものがあるというふうに考えております」とも述べている。 実際には、本末転倒である。習主席がゴーサインを出したから、9月20日の合意に至ったのだ。約2ヵ月も前に自分がゴーサインを出したことに言及することが、どうして「非常に重いもの」なのか?