『源氏物語』人で溢れる賀茂の祭で源氏の正妻・葵の上と愛人・六条御息所が激突!恥をかかせられた御息所の魂は深く傷つき…
現在放送中のNHK大河ドラマ『光る君へ』。吉高由里子さん演じる主人公・紫式部が書き上げた『源氏物語』は、1000年以上にわたって人びとに愛されてきました。駒澤大学文学部の松井健児教授によると「『源氏物語』の登場人物の言葉に注目することで、紫式部がキャラクターの個性をいかに大切に、巧みに描き分けているかが実感できる」そうで――。そこで今回は、松井教授が源氏物語の原文から100の言葉を厳選した著書『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』より一部抜粋し、物語の魅力に迫ります。 【書影】厳選されたフレーズをたどるだけで、物語全体の流れがわかる!松井健児『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』 * * * * * * * ◆六条御息所の従者の言葉 <巻名>葵 <原文>これはさらに、さや(よ)うにさしのけなどすべき御車(おくるま)にもあらず <現代語訳>これは断じて、そのように押しのけなどしてよいお車ではない 賀茂の祭は、平安時代の祭のなかでももっとも華やかな祭でした。 祭に先立って、賀茂神に奉仕するために皇女のなかから選ばれた斎院が、賀茂川で禊(みそ)ぎをします。 斎院御禊(ごけい)といって、斎院が禊ぎに出かける行列は、それは盛大なものでした。
◆源氏を一目見たい人たちが集まる 今年は、朱雀帝(すざくてい)が即位して初めての祭であり、勅命によって源氏も特別に供奉(ぐぶ)することになりました。 一条大路は、身分の高い貴族から庶民にいたるまで、一目でも源氏を見たいと思う人たちで、びっしりと埋めつくされました。 源氏の正妻である葵の上は、源氏の子を懐妊していました。 気分もよくないときでしたが、女房たちにせがまれて、しかたなく遅れてでかけました。 大路にはすでに牛車(ぎっしゃ)が立て込み、入る場所がありません。 祭の酒の酔いもあって、葵の上の従者たちは、左大臣家の権威をたのんで、あたりの車を退かせます。
◆激しい乱闘 なかに、目立たないようにしている車がありました。 その従者は、「これは断じて、そのように押しのけなどしてよいお車ではない」と宣言します。六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)が、ひそかに祭に来ていたのです。 六条御息所は身分の高い女性でしたが、夫であった皇太子が亡くなり独身でした。 源氏の熱心な求愛によって、長く愛人のような立場にありました。従者のプライドが高いのも当然です。 車の女性の正体を知った、葵の上の従者は、「源氏さまのお通いどころだからといって、何を言うか」と言葉を返し、激しい乱闘となります。 葵の上方の年配の従者は「そんな乱暴をするな」と言いますが、互いに酔っている若者たちを制止できません。 ついに六条御息所の牛車の榻(しじ)も折られ、奥へと押し込まれてしまいました。今でいえば車のバンパーが、へし折られてしまったようなものです。
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