みつはしちかこ『ハーイあっこです』誕生秘話。多忙すぎて一度は連載依頼を断るも、説得にやってきた記者がまさかの…
60年以上愛される『小さな恋のものがたり』や、明るくにぎやかなファミリー漫画『ハーイあっこです』など、今も多くのファンを魅了する漫画家・みつはしちかこさん。83歳になり、家族のことを思い出しながら、ひとり暮らしを楽しんでいます。今回は、みつはしさんの新著『こんにちは! ひとり暮らし』から、心あたたまるエッセイの一部をお届けします。 【書影】思い出と暮らす。今を楽しむ。みつはしちかこ『こんにちは! ひとり暮らし』 * * * * * * * ◆『ハーイあっこです』 わたしが40代になるころ、編集の山崎園子さんをはじめ、押しかけアシスタントさんや家事を手伝ってくれる人など、毎日にぎやかに若い女性たちが出入りしていました。 その上、仕事が大変だろうと子守りにきてくれた義母(姑)が、いつしか家族の一員となり、そのうち一家をとりしきる家長になっていました。 明治生まれのこの義母は、超真面目でしたが、それゆえ超面白かったのです。 そして、わたしがずっとマンガを描いていられるように、ずいぶん気をつかってくれていました。
◆連載マンガの依頼 そんな仕事に追われる忙しい日々を送っていたときに、朝日新聞社から日曜版に連載マンガを描いてほしいとの電話がきました。 「今、大忙しで、とても新しいマンガは描けません」と断ったのですが、相手はかなり熱心に粘ってきて、「じゃあ、ボクがみつはしさんの家にうかがって説得します」と。 “家に来られたら気の小さいわたしはきっと引き受けてしまう!”と思い、あわてて「いえ! わたしから新聞社に行きます!」と、訪ねていく約束をしたのですけど、朝日新聞社は大会社。 建物はともかく、社員の人たちはきっとみんな優秀な大学出で、偉そうな人たちばかりだろうと気が重かったのです。
◆『ハーイあっこです』誕生秘話 社内にある喫茶室でビビりながら待っていたら、ニコニコと現れた(家に電話をかけてきた)新聞社の人は、わたしが描いていた朝日新聞社の社員というイメージと全く違っていて……。スマートで若くて明るい、聞き上手な男性でした! だんだんわたしの緊張がほどけ、話しているうちにわたしはどんどんリラックスしてきて、わたしのウチの様子までベラベラしゃべりはじめたのです。 その方は、ときどき吹き出しながら、「ヘー」とか、「フー」とか、「それで?」とか、興味津々にわたしの話を聞いてくれて。 そのうち断りにきたというのに、段々と承諾する雰囲気になってしまいました。 ついにその人が大笑いしながらわたしを指さし、「そーですよ。それをマンガに描いてくれたらいいんですよ」「みつはしさんの家庭でのできごとを描くだけで、面白いマンガになりますよ!」といわれて、わたしのほうも“そーかー”という気になってしまい、結局、日曜版に『ハーイあっこです』を描くことになりました。 そういうわけで『ハーイあっこです』は、全員ウチの家族がモデルなのです。 シャッキリしてるお姑さん、2人の面白い子供たち、そしてタマに出てくるあっこの旦那さんは、実物よりちょっとハンサムにして、主人公のあっこもわたしよりずっと若く可愛くしました(でも、わたしのつもり)。
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