23歳差の恋はアリかナシか⁉ 倫理観を揺さぶる『メイ・ディセンバー ゆれる真実』
「昔から無邪気なの」とほほえむグレイシーの真意とは……
周囲の人々に愛されながら平穏な日々を送るグレイシーと家族たち。しかし、グレイシーの言動にはどこか違和感を覚えるものがある。服装や衣装、メイクから言動まで、パステル調のふんわりとしたイメージと不気味さを体現するムーアの役作りが圧巻!
映画は、2匹のアイリッシュセッターのいる海辺の素敵な家に暮らす一家の団欒を映し出すところから始まります。 グレイシーとジョーの長女は既に大学生で、双子の兄妹が高校の卒業式を間近に控えています。やわらかい光が差し込むパステルカラー調の美しい世界。そこに流れるメロドラマチックな音楽に乗せて登場するグレイシーは、どこか夢見心地なようすもありつつ、その浮世離れした存在が不気味に感じられて、心をざわつかせます。 終始一貫して、このざわざわとした感覚は続くばかりか、エリザベスという第三者が加わり、グレイシーと同化しようと彼女が試みることで事態はより一層、日常風景の中に奇妙な違和感を増幅させていきます。 焦点は3つあります。いまだに自宅に嫌がらせをされるほどのスキャンダルを巻き起こしながら、グレイシーは罪悪感などとは無縁のように見えます。本人は自らを「昔から無邪気(ナイーヴ)なの」と表現しますが、前夫と前夫との子供ら家族とレストランで顔を合わせるといった、ぎょっとするような場面でもしばしばこの無邪気さを発揮します。 ふんわりとした優しい空気をまとっているけれど、子供たちやジョー、あるいはエリザベスに対する態度の中には、ふとした瞬間に威圧的だったり無神経な言動も。ヘインズ監督の信頼の厚いムーアは、どこまで行っても「何を考えているのか?」と迷宮に誘い込まれるようなグレイシーを体現して、ほれぼれするほどミステリアスで人を困惑させるユニークな演技を披露しています。
青春時代を謳歌する子供たちの姿に、若き父親ジョーは何を思うのか
どこか倒錯した感もあるエリザベスとグレイシーの関係性や浮世離れした存在感の一方で、地に足がついた印象を与えるジョー。難しい役どころを演じ切ったメルトンが体現するジョーに感情移入する人も少なくないのでは。