「昔からの味を残したい」ひやしあめなど、レトロ感たっぷりの瓶ジュース 手掛けるのは30代女性
ひやしあめ、みかん水、メロンサワー…。レトロ感あふれる瓶ジュースを製造し、滋賀県内外の銭湯などに卸している。「先代」から引き継いだ昔ながらの味を守っており、「銭湯には欠かせないアイテム。まだこんなんあったんや、と懐かしんでもらえたら」と語る。 【写真】みかん水、ひやしあめ、メロンサワー…レトロな瓶が素敵 香川県出身。京都造形芸術大(現・京都芸術大)の学生だった頃、湯船のないシェアハウスに住んでいたため銭湯通いが日課に。「もともと生活に根ざした古いものが好きだった」。銭湯とともに、湯上がりの瓶ジュースに魅了された。 銭湯でバイトをしていた大学4年の時、京都市内の瓶ジュース製造所が近く廃業することを知る。もったいないと感じ、1人で営む「おじいさん」に掛け合った。事業承継も考えたが、法制度や資金面の壁で一度は諦め、東京で就職した。 ただその後も気になり、4カ月で退職。おじいさんの製造所に再び通い続け、大事なレシピを教わった。 20代半ばで、後に結婚する恋人が働く滋賀県東近江市へ。それまで湖国と縁はなく、「滋賀の人はみんな琵琶湖畔に住んで優雅な暮らしが待っていると思った」と苦笑する。「でも近所にたまたま銭湯があって本当に良かった」 2019年には念願だった清涼飲料水の製造許可を得て、「南山[みなみやま]鉱泉所」を創業。おじいさんの製造所の屋号から「南」の1字をもらった。 看板商品のひやしあめは、麦芽水あめにしぼったショウガ汁がたくさん入る。よく振って飲めば、懐かしい味わいが口中に広がる。 3年前には製造所を新たに構え、直伝のジュース5種類、月千本ほどを生産している。廃業した別の製造所から作り方を聞いて、コーラとサイダーも近く売り出すという。 おじいさんからは古い製造機械も譲り受けた。「アメ車のようで使いこなすのが難しい。うまく扱えれば効率性が上がるので、いずれはフル活用したい」と意気込む。 ジュースの製造だけでなく、得意の絵を生かし、銭湯の壁に風景画などを描く仕事も受けている。先細りしている銭湯文化を盛り上げようと懸命だ。 現在、瓶ジュースの取引先は京都市内を中心に銭湯や飲食店など20カ所以上に増えた。王冠の栓や自身がデザインしたラベルをはじめ瓶自体にもこだわりが光る。 ひやしあめは「あなたのハートにジンジャーパンチ」、メロンサワーは「忘れないでネ!青春の味」。商品ごとに付けたキャッチコピーも振るっている。 手に入りにくくなった香料や新商品の味について、今でもおじいさんに相談を欠かさない。「職人気質で寡黙だけど、何でも教えてくれる師匠のような感じ」と信頼する。 「おいしいジュースは他にもあるけど、昔からの味を残したい。銭湯の応援にもなれば」。思い入れがたっぷり詰まった瓶ジュースを、滋賀でもっと広めるのが目標だ。 (まいどなニュース/京都新聞・堤 冬樹)
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