産業能率大GKカウンゼン・マラが涙のJ1町田内定会見、誓った「覚悟」…両親はミャンマー難民、妹は女子バレー強豪校の主将
会見場で真っ先に目に映ったのは、お世話になった先生が涙を流しながら祝福してくれている様子だった。「それでもうダメでしたね」。普段は涙もろいタイプではないというカウンゼン・マラだが、この時ばかりは溢れ出る涙を抑えることができなかった。「感謝の気持ちが大きい。まずはみんなに恩返しができるように頑張りたい」。時折言葉を詰まらせながら、プロサッカー選手としての大成を誓った。 【写真】「えげつない爆美女」「初めて見た」「美人にも程がある」元日本代表GKの妻がピッチ登場 22日、産業能率大で25シーズンのFC町田ゼルビア内定が発表になったGKカウンゼン・マラ(4年=東京Vユース)の記者会見が行われた。OBに現在ジュビロ磐田に所属するFW渡邉りょうがいるが、大卒即J1クラブ入りをするのは、同選手が初となる。「優しい人柄で、周りにも安らぎを与えてくれる存在。プロになるからには厳しさも備えないといけないが、日本を代表するGKになってほしい」。小湊隆延監督も愛弟子の門出にエールを送った。 ミャンマー人の両親の間に生まれたマラ。父親のマウン・ミャトゥさんは元ミャンマー代表の肩書を持つバレーボール選手だったが、情勢の悪化により日本には難民としてやってきた事情を持つ。そのためマラ自身はミャンマーに行ったこともなく、祖父母や親せきにも会ったことがないという。 「なかなか連絡を取る手段もないので、自分がこういう通過点に立てたことを色んなメディアを通じてでも知ってもらえたら嬉しい。それにミャンマーで暮らしている子供たちだったり、今クーデターで大変な状況にあるので、そういった人たちの勇気に一つでも繋がればいいなと思っています」。胸に秘めた想いは人一倍だ。 マラ自身、スポーツは小学校3年生の時に始めたサッカー一筋だが、妹のイェーモン・ミャさんはバレーボール選手で、高校女子の強豪・下北沢成徳高校でキャプテンを務める高校3年生。世代別日本代表にも特例で選出を受ける世代の有望株だ。卒業後はSVリーグに進むことは確実で、同じタイミングで“プロアスリート”としてのキャリアを始めることになる。 ミャさんとはお互いに切磋琢磨してきたという。「一緒にトレーニングしたり、ジャンプの仕方とかはGKと似ている部分もあるので、『こういうときはどうやって動くの?』とか、アドバイスをしあった。あとはメンタル面。僕とは違った性格、いろんな経験をしているので、自分が今まで見たことのない視点、感じたことのない言葉を持っていて、本当に頼もしい妹です」。今後もお互いに刺激し合いながら、アスリートとしての道を究めていくつもりだ。 大学のトップチームで本格的にレギュラーを掴んだのは今年からだったが、190cmの長身とポテンシャルを感じさせるプレーには、以前から複数のJクラブが関心を持っていた。大学3年生の時に練習に参加した湘南ベルマーレからは今春のキャンプにも誘いを受けた。さらに古巣の東京Vだけでなく、岐阜や宮崎の練習にも参加。そのほか興味を伝えられたクラブがいくつかあったという。 その中で「一番厳しい道」に進むことを自ら選んだ。重要視したのは「どこに行けば一番成長できるか」ということだった。絶対的守護神・谷晃生には今のままでは敵わないことは百も承知。「でも挑戦するチャンスをこのタイミングでいただけた。本当に歯を食いしばってやっていくだけだと思います」。各国代表選手が多数在籍する環境に身を置くことで、日常を世界基準に引き上げたい思いを強くしている。 「将来的には日本国籍を取って勝負したい。生まれたときから日本で育ったし、家族も日本にお世話になっている。日本に恩返しがしたい。鈴木彩艶選手(パルマ)とか、佐々木雅士選手(柏)、野澤大志ブランドン選手(FC東京)は小さい頃から知っているし、トレセンなどで競い合っていた仲なので、もう一度同じ舞台で勝負したいと思っています」 サッカーが紡いでくれた縁を感じている。大学で指導を受けた最上晃太GKコーチは、20年まで町田アカデミーでコーチを務めていた。さらに小湊監督は、現在町田のトップチームに在籍するDF杉岡大暉が高卒で湘南に入団する際のスカウト担当だった。「杉岡さんとは湘南のキャンプでもお世話になったのですが、町田で再会した時も久しぶりって気さくに声をかけてくれた。サッカー界って面白いなと思いますね」。これまでの出会いすべてに感謝しながら、プロ生活を始める。