ドラマ『パチンコ』が描いた、大阪のある街の歴史と“今”。コリアタウンがある背景知らない人も…。学べる場所を作る意義
今、「自分」が立つコリアタウンから歴史を遡る展示
館内の展示は、多くの歴史資料館とは「逆」のタイムラインで、現代から昔にさかのぼる形で資料が展示されている。 入り口を入るとまず展示されているのは、現在の大阪コリアタウンの写真や説明だ。 そこには、来館者が立っているコリアタウンの「今」から知ってもらい、身近なことから歴史を知っていってほしいという願いが込められている。 「人は、自分と関係のないと思ってしまうことには関心を持つことが難しく、歴史も同じだと思います。日本の教育現場では、在日コリアンの歴史を取り上げることはほぼありません。大阪の都市化は在日コリアン抜きで語ることはできず、日本の近現代史も同様です。 さらに遡ると、朝鮮半島と日本の繋がりは渡来人の存在からもたどれます。しかし、こうした歴史の諸相を知る機会がなければ『自分と関係のない』歴史が展示されていると思ってしまう。だからこそ、植民地時代の歴史から入るのではなく、自分ごと化しやすいように、自分の目の前で起こっている、自分と関係がある歴史から遡っていく形を取りました」(伊地知さん) 「朝鮮市場」がコリアタウンの起源なこともあり、人々に身近で関心を持ちやすい、在日コリアンの食文化など暮らしに関する展示も多くある。 フィールドワークでの学びの場として多くの人が訪れるようになった今、目指すのは、コリアタウンを訪れた人にもふらっと入ってきてもらえるようになることだ。 トークイベントや特別展なども開催しており、韓国文化が好きで生野を訪れる人に、大阪コリアタウンができた背景や在日コリアンの歴史についても知ってもらえるよう工夫を重ねていく。
ドラマや文化を通して歴史を知る「きっかけ」に
伊地知さんは、ドラマ『Pachinko(パチンコ)』シーズン2の時代考証を担う制作コンサルタントも務めた。 食べ物やドラマなどの文化を入り口に、「歴史を知るきっかけになれば」と望んでいる。 伊地知さんは「在日コリアンに対する無関心とヘイトが蔓延する社会は地続き」だと話す。 暮らしや文化についての展示と共に、在日コリアンが経験してきた、就職や進学、住宅入居などあらゆる場面で遭う差別についても説明がある。「知る」ことから、差別を許さない社会を目指す一歩を探る。 これまで在日コリアンコミュニティに関心を持つ機会がなかった人たちにとっても、ドラマ『パチンコ』は、歴史の一部を知るきっかけとなった。 ドラマの原作となっている小説『パチンコ』の作者である、韓国系アメリカ人作家のミン・ジン・リーさんは、配偶者の東京転勤で日本に住んだ期間に、数十人の在日コリアンを取材。人々が実際に経験した出来事や差別などを小説の中に織り交ぜた。 取材を受けた在日コリアンの人々の経験や思いを、小説やドラマを通して受け取った私たちは、ドラマの最終話を見終わった後、実際に大阪・猪飼野の地を生きた人たちの暮らしや歴史を知ることで、本当の意味でドラマを「完走」することができるのかもしれない。 (取材・文=冨田すみれ子)