F1豪州GP急転中止の裏側…再開遅れれば損失は数百億円
それは、前代未聞の中止劇だった。 F1の2020年シーズン開幕戦となるはずだったオーストラリアGPが、新型コロナウイルスの影響で、開幕当日の3月13日(金)に中止となった。しかし、前日の12日(木)の段階では、FIA(国際自動車連盟)は翌日からの開催に向けて、準備を進めていた。つまり、24時間で状況が一変したわけだ。いったい、何があったのか。 その大きな要因となったのが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査を受けていたF1チームのスタッフの中のひとりが、12日に陽性という結果が出たことだ。そのスタッフはマクラーレンに所属。この結果を受けて、マクラーレンはオーストラリアGPからの撤退を発表した。 そこでF1を統括しているFIAと、F1の商業権を持つリバティメディア(F1)、主催者(オーストラリアン・グランプリ・コーポレーション=AGPC)が、マクラーレンを除く9チームの代表者らを招いて、オーストラリアGPを開催するかどうかについての緊急会議を開いた。 しかし、意見は分かれた。反対票を投じたのはフェラーリ、アルファロメオ、ルノーの3チーム。レッドブル、アルファタウリ、レーシングポイント、そしてメルセデスは開催に賛成票を投じた。ハースとウィリアムズは投票を棄権。すでにマクラーレンは不参加を表明しており、反対と賛成は4対4の同数となり、F1のモータースポーツ担当マネージングディレクターを務めるロス・ブラウンの判断に委ねられることになった。 スポーティングレギュレーションの第5条7項には「競技会は、参加車両が12台(つまり6チーム)に満たない場合には中止することができる」とある。このレギュレーションは中止するための条件のひとつで、たとえ12台に満たない場合であっても、FIAとF1が開催したければ、開催は可能だった。
そこでブラウンは、とりあえず、金曜日のセッションを行い、その後再び検討するプランを提案したと言われている。しかし、その後、メルセデスが翻意し、反対の立場をとったため、強引に開催することを断念。それでも、まだレギュレーション的には前述のように開催はできた。 だが、メルセデスが立場を変え、反対派が多数となったため、FIAとF1、そして主催者が開催を強行することができなくなった。話し合いは埒(らち)が明かないまま、13日の午前2時すぎに散会となった。この状況で、すでに開催に反対の立場をとっていたフェラーリとアルファロメオのドライバーであるセバスチャン・ベッテルとキミ・ライコネンが帰国のための準備を進め、メルセデスの2人のドライバー、ルイス・ハミルトンとバルテリ・ボッタスも早朝にメルボルンを後にすることを決めていた。 それでも、開催中止という発表はいっこうに出されなかった。FIAとF1、そして主催者は、パドックにレース関係者以外を入れないという感染予防策を講じたうえで、グランプリをなんとか開催しようとしていた。 なぜ、彼らはぎりぎりまで開催を強行しようとしたのか。それはオーストラリアGP開催には巨額の開催権料が主催者からF1に支払われることになっていたからだ。その額、数十億円。もちろん、FIAまたはF1側が中止を決定すれば、契約不履行でそのお金は返済しなければならない。逆に主催者の決定ならば、その大金はドブに捨てたことになる。 13日の早朝から再び始まった話し合いでもなかなか結論が出ないまま、サーキットは開門の時刻である午前8時50分を迎えたため、主催者は観戦者の入場を一時保留。その約1時間後の午前10時すぎにFIAとF1がイベント中止を要請。こうしてオーストラリアGPの中止がようやく決定した。