F1グランプリ第9戦まで中止・延期も対新型コロナに世界屈指の技術力を結集…メルセデスが人工呼吸器製造成功も
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行を受け、2020年の開幕戦として予定されていたオーストラリアGPが中止となったF1は、その後も、中止や延期が相次ぎ、モントリオールで6月12日に開幕する予定だったカナダGPの延期も決定した。現在、その第9戦までが通常開催できない状態となっている。 カナダGPの後に控えているヨーロッパラウンドの開催も予断を許さない状況だ。10戦目のフランスGP(6月28日)の舞台であるフランスは世界で5番目に多い9万人以上の感染者を出し、11戦目のオーストリアGP(7月5日)が開催されるオーストリアも1万人以上の感染が報告されている。感染者の総数では、約1万4000人以上の感染者が出ているカナダと、ほぼ同じだが、カナダの人口が約3700万人であるのに対して、オーストリアは、約880万人ということを考えると、オーストリアの状況が決して安心できないことは容易に察しがつく。 さらに、その後の12戦目、7月19日にGP開催が予定されているイギリスでは、現在、外出禁止令が出され、ジョンソン首相にまで新型コロナウイルスの「陽性」反応が出て、集中治療室で治療中という非常事態となっている。 イギリスGPは1950年に最初のF1グランプリを開催した歴史ある場所。もし、F1発祥の地でのグランプリすら延期または中止となれば、F1の2020年のスケジュールを根底から見直さなければならなくなる。 すでにF1は、そのような事態になることも想定して動き始めている。例年8月に設定されていたファクトリー閉鎖期間を3月下旬から5月上旬までに前倒しし、全チームが休業状態に入っている。これは新型コロナウイルス感染症の拡大が収まった場合、延期されていたグランプリを8月に開催するためだ。 また、F1は2021年から大きくレギュレーションを変更する予定だったが、3月にチーム代表らとの電話会議を行い、2021年に予定されていた新レギュレーションの導入を1年遅らせ、2022年に施行することで合意した。レギュレーションを変更すると、各チームは一からマシンを開発しなければならなくなるため、膨大な開発費を要する。新型コロナウイルス感染症による世界的な経済危機を考慮した、F1界なりの緊急対策だった。 F1が行った新型コロナウイルス感染症への対応は、これだけではない。それまで、レースを行うために費やしてきたリソース(資源)を、新型コロナウイルス感染の拡大により苦境に立たされている医療分野へ投じている。 イギリスを拠点とする7チーム(メルセデス、レッドブル、マクラーレン、ルノー、レーシングポイント、ハース、ウイリアムズ)が、「プロジェクト・ピットレーン」なるグループを結成し、新型コロナウイルスの感染拡大による人的被害を最小限に抑えるべく英国政府と医療機関に協力を行っている。3月末には、メルセデスが「CPAP」と呼ばれる人工呼吸器の製造に成功した。 今後、「CPAP」が量産されれば、従来の気管切開手術を必要とする人工呼吸器は重症患者に使用し、集中治療室以外の病室で療養できる患者には「CPAP」を使用することで、中等症の患者の重篤化を防ぐことが期待できる。 F1のエンジニアの多くはイギリスをはじめ世界中の一流大学を卒業したエリートばかり。またF1のファクトリーには高性能なコンピュータや試作機もそろっており、精密機械を製造できる環境が整っている。 F1はいまファクトリーが閉鎖され、少し早い夏休み状態となっている。しかし、新型コロナウイルスとの戦いに勝つために、医療パーツを製造するスタッフたちに対しては、特例でファクトリーは開放されている。 F1が持つ力を、いまこそ世界に披露してほしい。 (文責・尾張正博/モータージャーナリスト)