「町中華」の“昭和の味”を演出する「うま味調味料」は悪者なのか?
「昭和」のノスタルジーを感じさせる「町中華」を食べ歩く
月島の「町中華」として評判高い「健楽」で、ラーメン、炒飯をいただくと、昭和23年生まれの私は、「昭和」のノスタルジーを感じる味わいに痺れる。
矢来町の「龍朋」や向丘の「兆徳」で誰しもが注文する「炒飯」も同様で、「うま味調味料」が「昭和」の味を支えている。
なかでも「兆徳」の2種あるうちの「玉子チャーハン(塩)」は上出来である。店の壁には、亡くなった落語家の名人古今亭志ん朝の色紙がさりげなく飾ってある。
「兆徳」に負けず行列が絶えない上野「中華珍満」の「餃子」「炒飯」はインバウンドのお客様にも大人気である。
同じく上野のガード脇に店を構える「珍々軒」は、客席の半分は店内からはみ出し、道路に設けられたテーブルと椅子でいただく「町中華」。
この店は、YouTubeの「和食Japanese Food Channel」でたまたま見つけた。YouTubeの動画では、一切の説明なしで、料理の注文を捌いてゆく様子を延々と映し出してゆくのだが、その炒飯の調理の手さばきが見事で、熟練した職人仕事を目の当たりにする感じである。
次から次へと注文がやってくるラーメン、炒飯を二人でさばく様子を見ていて、どうしても出かけたくなり、ある日の昼下がりに食べに出かけた。白飯がパラパラに仕上がって、うまいの、なんの!
二度目に出かけた時は、動画に出てくる職人と別の職人だったため、初回の感動はなかったのだが、それでも標準以上の味だった。三度目はラーメン。これまた「うま味調味料」に支えられた懐かしい「昭和」のラーメンで、具材が多くて、飾り立てるばかりのラーメンにはない簡潔な美味しさがそこには在った。
● 山本益博(やまもと・ますひろ)
1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
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文・写真/山本益博 編集/森本 泉(Web LEON)