「3カ月生理が来なかったら受診を」15年無月経だった千葉真子が、反面教師として伝えたいこと―産婦人科医が解説 #性のギモン
千葉真子さん「私の失敗を反面教師にしてほしい」
――2021年に、ご自身の無月経の経験をブログで発信したきっかけは何だったのでしょうか。 千葉真子: 自分の2人の娘たちはもちろん、未来あるアスリートたちを守ってあげたいという親心のような気持ちから「私の失敗を反面教師にして、同じような失敗をしてほしくない」と思い、公表させていただくことにしました。 私のように無月経を放置したまま月日が経ってしまうと、どんどん言い出しにくくなる。でも、放置しておくと手遅れになってしまって、治療をしてもうまくいかないことにもつながるかもしれない。だからこそ、できるだけやっぱり早めにお医者さんに相談して、いろんな選択肢を聞いたうえで、時間をかけてよりよい方向に持っていくのがいいのかなと思います。 ――本人だけではなく、周囲のサポートも大切だと思います。 千葉真子: 特にジュニア期の選手においては、選手自身だけではなく、その指導者と保護者が一丸となって問題に取り組めるようなガイドラインなどがあると、同じ認識を持って課題に取り組めるのではないかなと思いますね。 例えば「月経が3カ月以上来なかったら専門家に相談をしましょう」という目安があれば、とても分かりやすいじゃないですか。ジュニア期の選手にも届くような、分かりやすい内容で統一されるといいと思いますね。
産婦人科医・重見大介「生理が3カ月来なければ受診を」
千葉真子さんの体験を専門家はどう見るのか。産婦人科医の重見大介さんに話を聞いた。 ――そもそも無月経とは、どのような状態を指しますか。また何が原因で起こるものなのでしょうか。 重見大介: 無月経とは、月経が3カ月間全く来ない状態のことです。生まれつきの病気が原因で月経が一度も来ない場合は「原発性無月経」と言いますが、今回の千葉さんのケースは「続発性無月経」にあたります。 標準体重よりも体重が少なくなるほどの急激なダイエットや、肥満、ストレスなどで、ホルモンバランスが崩れてしまうことが原因です。アスリートだけに限らず、あらゆる女性に起こりうる症状だと言えます。もし月経が3カ月間来ない場合、放置せずに産婦人科を受診してほしいです。 ――千葉さんは引退後に通常の月経サイクルが始まったとのことですが、無月経が長期間続いた場合、一般的にはどのような悪影響がありますか。 重見大介: 無月経になると、ほとんどのケースでは排卵ができなくなります。排卵ができない状態になると、体内にある「エストロゲン」という女性ホルモンの数値が低い状態が続いて骨がもろくなってしまいます。アスリートの方であれば、疲労骨折しやすくなったり、メンタルに不調を来したりと競技にも影響を及ぼすこともあるでしょう。また、無月経状態が続くと、将来的に妊娠しにくくなる可能性も考えられます。 ――無月経を理由に産婦人科を受診したとき、どのような治療をすることになりますか。 重見大介: まずは原因を調べるために、ホルモンの値を調べる血液検査、子宮や卵巣の見た目に異常がないかを調べる超音波検査、脳腫瘍がないかどうかの検査などを行います。 千葉さんのようにかなり痩せ気味であることでエストロゲンが少ない状態になっていて、それが無月経の原因だと判断された場合は、体重を標準体重に近づけることがどうしても必要になります。その後の治療は経過を見ながら判断しますが、体重を増やすことで自然な月経サイクルに戻ることも少なくありません。 場合によっては、月経をコントロールするために低用量ピルを処方することもあります。ただ、いずれにしても、すぐに月経サイクルが改善されるわけではなく、数カ月単位で治療しなければなりません。 ――千葉さんは当時選手の間に「治療すると太る」という噂があったと語っていますが、本当なのでしょうか。 重見大介: 治療の一環で体重を増やさなければいけない場合があります。また、ピルを服用した場合に、服用開始から1~2カ月程度一時的なむくみを感じたり、食欲が少し増えたりする方が中にはいらっしゃいます。 ただ、ピルの服用を3カ月以上続けて体重が本当に増えるのかを検討した研究では、ピルの服用と体重増加は関係がないということがわかっています。ですから、3カ月ほど様子を見れば、むくみや食欲の増加なども落ち着いてくるかと思います。 ――治療にあたって体重を増やす必要があるとなると、抵抗感のある方もいるかもしれません。 重見大介: 医療の観点から言えば、標準体重に近づけることは重要です。ただし、治療にあたってはその方ご自身の取り組みや理解が欠かせません。なので、体重を増やすことに強い抵抗感があったとしたら、自分で思い詰めてしまっているからなのか、誰かに何かを言われたからなのかといった意識の土台まで深掘りするカウンセリング的な介入をするケースもあります。 そのうえで、体重を増やすペースについても、いきなり標準体重の90%を目指すのではなく、小さな目標をつくって試してみて、体や競技に悪い影響が出ていないかどうかを検証しながら少しずつクリアしていく。そうすると、ご本人の精神的な負荷も少なく、納得して取り組んでもらえるんじゃないかなと思います。