ファスナー界のリーダー「YKK」のテクノロジー【後編】ファスナーとサステナビリティ
もともとYKKは社内の資源ロスを削減するための分離回収技術を開発しており、それが「zip TO zip™」で活用された。手作業での分解も行いながら、はじめて「ファスナーからファスナーへのリサイクル」が成功したのだ。 「『zip TO zip™』は実験的なプロジェクトですが、本当に大きな経験でした。今回はパタゴニア様のご協力があって実現しましたが、このプロセスを将来的に社会全体に普及していくことを目指しています。最終的にはYKK以外のメーカーのファスナーも、当社で回収・再生できるくらいのサーキュラーエコノミーを構築したいと考えています」 非常に難易度が高いファスナーのリサイクルだが、そこへの挑戦の姿勢には驚かされる。服に不可欠なパーツであり、その世界トップシェア企業であるからこそ使命感を持っている。 「YKKの企業精神である『善の巡環』は、社会や顧客・関連業界、YKK社員とともに繁栄するという考え方で、常に事業活動の基本としてきました。『善の巡環』はサステナビリティと親和性の高いものだと捉えています」
最初のファスナーと最新のファスナー
サステナビリティに関する取材の最後に、嶌田さんは極めてユニークなプロダクトを紹介してくれた。「AiryString®(エアリーストリング)」という樹脂製のファスナーだ。
「AiryString®は『テープ』がついていないファスナーです。サステナビリティの視点では素材を減らすことにより、製造時の環境負荷を大幅に低減することが可能となりました。エレメントを直接服に縫い付けるという特殊な設計で、ミシンメーカーのJUKI様とコラボレーションした専用のミシンをセットで使用します」 環境に配慮するにあたって、テープという素材そのものを使わないというアイディア。ファスナー本体だけでなく、その縫製用ミシンまでクライアントに提供するというYKKらしい発想だ。軽量で柔軟性があり、デザインの自由度も高まるという意味ではファッション視点でも独特の価値を持つが、興味深い点はもうひとつある。 「ファスナーは1891年にホイットコム・ジャドソン氏が発明したとされるのですが、当時のファスナーにもテープがなく、エレメントに開いた穴に糸を通して直接縫い付けるものだったのです。その後世界に普及していく際にテープは不可欠な存在になり、それがスタンダードになって100年以上も経ちます。いまになってもう一度テープがないファスナーが開発されるなんて、ちょっと面白いと思いませんか?」 プロダクトの構造上、非常に難しいサステナビリティへの課題を乗り越えようとする最新の形のひとつとして、YKKは「ファスナー」というテクノロジーが最初に生まれた地点へと回帰したようにも見える。 ◾️取材協力 YKK株式会社 ジャパンカンパニー https://lyncs.ykkfastening.com YKKスナップファスナー株式会社 https://www.ykksnap.co.jp/