ファスナー界のリーダー「YKK」のテクノロジー【後編】ファスナーとサステナビリティ
「NATULON®(ナチュロン)」は1994年に発売された、テープ部分に再生PETを使用した環境配慮型ファスナーだ。近年この商品をめぐる状況が激変していると嶌田さんは話す。 「YKKではサステナビリティへの注目が高まる以前から、環境配慮型商品の開発に取り組んでおり、近年ではそれらの商品に対する注目度の高まりを感じています。環境コンシャスな国・地域・企業のお客様が増え、こうした状況は今後も続くでしょう。YKKでは、2030年までにファスニング製品の繊維材料を『100%持続可能素材化』することを目標としています」
70ヶ国以上に進出しているYKKだからこそ、1本のファスナーから世界のファッションの潮流が見える。 NATULON®はテープ部分のみ再生材だったが、テープとエレメントに再生材を使用した「NATULON Plus®」というアップデート商品も販売を始めている。 ただし課題もあるという。 「再生材料はバージン材料と比べても品質は同等です。ただし、製造上の取り扱いは少し異なりますね。同じ品質を維持する為に様々な工夫や改善を重ねていますが、未知の素材と対面している感覚です」 YKKでは再生材を扱うノウハウを蓄積しながら新しい製法に取り組んでいる。そして、ゆくゆくはさらに越えるべき壁があるという。 「現在のNATULON®で使用している再生材は、必ずしも当社のファスナーから再生した素材ではありません。いずれはファスナーからファスナーを再生できればと考えています」
高すぎるリサイクルの壁
そう話す背景には、ファスナーが宿命的に背負っているリサイクルの難しさがあるという。 「ファスナーのリサイクルの課題は大きく2つあります。ひとつは『回収』。服と一体となって市場に出たファスナーを、服から分離し集める必要があります。そして『再生』。ファスナーは複数の素材からできているため、リサイクルするためにはまずそれぞれの部品へと分解が必要になるということです」 ペットボトルをリサイクルするようにはいかず、ゴミとして廃棄するしかない状況。そこでYKKは「zip TO zip™」という、廃棄されるファスナーを再びファスナーとして生まれ変わらせ循環させる実験的なプロジェクトを立ち上げた。この試みにはパートナーがいる。 アウトドア企業「パタゴニア」。先進的なフェアトレードに取り組み、服を長く使い続けるためのリペアセンターを展開し、自社製品のリサイクル素材使用率は実に98%(2024年春夏製品) 。サステナビリティにおいては最強と言えるブランドだ。機能性を重視するアウトドアウエアにファスナーは欠かせない。パタゴニアにとってもファスナーのリサイクルは悲願のテーマだったという。 「パタゴニア様は製品の回収とリサイクル、リペアサービスを行っていますが、服のパーツの中でファスナーだけが再生できなかったそうです」 それほどに難しい。しかしパタゴニアはウエアのリペアの過程で取り外されたファスナーを廃棄せず保管し、再生するための方策を探っていたという。そこでYKKが自社での再生を試みた。 「たとえばひとつのファスナーでも、エレメントは銅合金・スライダーは亜鉛合金・テープは化学繊維という組み合わせになっています。これらを分けて、不要部分を取り除いて再生材を作りました」