資金流入が続く「米投資適格社債市場」の“好環境”【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフリサーチストラテジスト】
※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。
【ポイント(1)】今年に入り、米社債市場の利回りがやや上昇
■米投資適格社債の利回りは、今年に入りやや上昇(債券価格は下落)しています。代表的な指標(Bloomberg US Aggregate Corporate Index)の利回りは昨年末の5.06%から足元で5.54%に上昇しました(5月24日時点)。 ■同社債の利回りは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ転換観測が台頭したことから、23年10月半ば(6.43%)から12月末(5.06%)にかけて急低下(債券価格は上昇)しました。しかし、24年に入ると、インフレ圧力の根強さを示す経済指標が相次ぎ、FRBの利下げ観測が後退して、ベースとなる米国債利回りが上昇したことから、同社債の利回りも上昇しました。4月に一時5.75%まで上昇しましたが、5月に発表された米雇用者数や米消費者物価の伸びが鈍化したことを受けて、年後半の米利下げ観測が再び強まり、5.5%近辺で推移しています。 ■一方、同米投資適格社債の指数の動きをみると、今年に入り概ね横ばい圏でもみ合っていることがわかります。米長期金利が3.88%から4.47%に大きく上昇するなかでも、同社債指数は底堅く推移しており、年初来リターン(トータルリターン、米ドルベース)は、▲1.2%と小幅な下落にとどまっています(5月24日時点)。国債との比較では、年限の近い中期ゾーンの米国債指数(5-7年)の同リターン▲1.8%を上回っています。 ■同社債が国債のリターンを上回ったのは、米国債利回りに比べて高い金利収入に加えて、信用リスクを表す社債スプレッド(国債利回りに対する上乗せ金利)が縮小(社債価格は国債価格に比べ上昇)したことが要因に挙げられます。
【ポイント(2)】米金利上昇でも縮小した社債スプレッド
■昨年秋以降、社債スプレッドは縮小傾向が続いています。23年10月に1.30%だった投資適格債の社債スプレッドは足元で0.87%(5月24日)と、21年11月以来の水準まで低下しました。 ■22年から23年10月にかけての米長期金利の上昇局面では、先行きの景気悪化懸念や投資家のリスク回避姿勢により、社債スプレッドが拡大する局面が多くみられました。しかし、今年の米長期金利上昇局面(23年末の3.88%から24年4月下旬に4.70%)では、社債スプレッドは拡大しませんでした。 ■この背景には高金利下でも米国景気が軟着陸(ソフトランディング)するとの期待が高まったことがあるとみられます。雇用や消費の堅調さを背景に企業業績は好調に推移しており、リセッションへの懸念が大きく後退しました。 ■LSEG(ロンドン証券取引所グループ)によれば、S&P500種株価指数採用企業の23年10-12月期の最終利益は前年同期比+10.1%となりました。さらに24年1-3月期以降も、四半期ベースで増益基調が続く見通しです(5月24日現在)。 ■好調な企業業績に支えられ、高金利下にもかかわらず、企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)に目立った悪化はみられません。特に投資適格社債はデフォルト(債務不履行)率が限定的で、社債の発行体の信用力が比較的安定していることから、投資家の買いを集めているとみられます。 ■信用リスクが後退するなか、国債よりも高い利回りが期待できる社債に対する投資家の需要が増加していることが、社債スプレッドの縮小につながっていると考えられます。
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