転売ヤーがディズニーランドの「使用済みのチケット」を1000円で買い取る驚愕の理由
限定品商法で拍車がかかる
オリエンタルランドが公表している2024年3月期のIR資料によれば、ゲスト1人当たりの商品販売収入は5157円で、過去最高を記録している。ここには飲食販売収入は含まれていないので、そのほとんどがグッズの販売収入と見ていいだろう。親子4人家族でTDRを訪れた場合、グッズ商品を2万円以上購入することになる。コアなディズニーファンは別として、一般的なTDR利用者の感覚からするとかなり高額なのではないだろうか。 ちなみにディズニー転売ヤーが社会問題化する以前の2020年3月期には、1人当たりの商品販売収入は3877円だった。わずか4年で1300円近く上がったことになる。商品の値上げによる影響もあるだろうが、1人あたり100万円近くのグッズを購入することも珍しくない転売ヤー集団が、商品販売収入をいくらか押し上げていると考えられるのではなかろうか。 この日、筆者がディズニーシー園内で遭遇しただけでも、30人前後の転売ヤーがいたと思われる。ディズニーランドにも同程度の転売ヤーがおり、彼らがみな複数のチケットを利用して月に1度100万円分のグッズを購入していたとしたら、それだけでも1日の転売ヤーからもたらされる売上は6000万円になる。劉姐らは、「儲けを出すには新商品発売から3日間が勝負」と話していたが、こうした状況が、毎月新商品の発売後3日間続くと仮定すると、少なくとも年間20億円を超える売上が転売ヤーによってもたらされていることになる。 1人あたりの商品販売収入に入園者数をかけて出てくる年間の商品販売収入は約1419億円なので、そのうち1.4%程度が転売ヤーからの収入という計算だ。繰り返すが、これはあの広い園内で筆者が目視できた転売ヤーの人数から得た控えめな概算であり、さらに大きな規模であってもおかしくはない。 港湾の倉庫を模したレストランに着いてからも、筆者のモヤモヤした気持ちは消えなかった。転売の加害者が一体誰なのか、一向に分からなくなってきたからだ。 被害者は、比較的はっきりしている。第一には、転売の横行で正規の価格で購入できなくなる、その商品の愛好者だ。そして第二に、本当に届けたい顧客に届けられない販売側だ。彼らには転売の横行によってブランドイメージが毀損されるという被害もあるだろう。 転売ヤーが加害者の一端であることは間違いない。しかし転売市場で転売品を購入する愛好者も、転売行為の片棒を担いでいるともいえる。つまり同じ商品の愛好者でも、被害者であったり加害者であったりするのである。 そしてもう一者、転売行為を助長させていると思える存在がある。それは被害者でもある、販売側だ。供給量や販売場所を制限して販売する「限定品商法」は、転売ヤーのビジネスチャンスを作っているようなものではないだろうか。もちろん自社の商品をどう売るかは「売る側の自由」であるが、転売ヤーがこれに対抗して「買う側の自由」を主張した場合、合理的に論駁できるだろうか……。 ひとり頭の中で堂々巡りをしながら彼女らに目をやると、無邪気に骨付きの鶏モモ肉にかぶりついている。カップルや家族連れが列をなすアトラクションやショーには目もくれなかった彼女らが、初めて楽しそうな表情を浮かべていたのが印象的だった。この時ばかりは、彼女たちを転売ヤーと見抜ける者は少なかったはずだ。 「今日何人の写真に私たちは写り込んだんだろう。せっかく恋人同士でディズニーに来て撮ったツーショットに、こんなパンパンな袋を抱えた5人組が写り込んでいたら、いやだろうな」 これまで無口だった梓梓がそう話すと、どっと笑いが起きた。 劉姐だけは仏頂面でこう呟いた。 「でも仕事だから仕方ないでしょ」