<ラグビーW杯>毒魚に刺された“二刀流”山田のトライでサモアを撃破!
日本代表のウイングの山田章仁は、ハーフタイム直前に名刺代わりのトライを決める。 場面は敵陣ゴール前の連続攻撃のさなか。右タッチライン際で「チャンスが来そうな匂いがある」と感覚を研ぎ澄ませ、プロップ畠山健介から丁寧なパスを受け取る。 目の前に見据えるは、対するサモア代表のウイング、アレサナ・ツイランギ。公式記録では山田より「4センチ、21キロ」も大きなエースだ。 ぴたりと止まった山田、しばし、思案する。 「ゴールラインまで距離があった。大外に勝負をかけたら、そのままタッチラインに出されるかな…」 すると、ツイランギが真っ直ぐ駆け上がってきた。パワーに任せ、タックルをぶちかますか。一方、山田もツイランギのもとへ直進する。 ぶつかる刹那、くるりと、回転する。 「身体が、反応して…」 技の名はロール。この人が慶應義塾大学時代から得意にしていたプレーだ。ツイランギは倒れ、山田はインゴールへ飛んだ。フルバックの五郎丸歩副将のコンバージョン成功もあり、スコアは20―0となった。 国際舞台で戦うべくサイズアップに注力してからも、山田は相手をセンチ単位でかわす動きを自らの長所とし続けてきた。アメフトのXリーグのチームに所属して、異色の“二刀流”にチャレンジしたのも、自らのスキルアップのためだった。そして、30歳にして初出場となるラグビーワールドカップ(RWC)の舞台で、初めてトライを決めたのだ。 「ああいうトライを準備して、練習してきた。こういう発表会で出せて、嬉しいですね」 実力を発揮したのは、チームも同じだった。2015年10月3日、ミルトンキーンズ・スタジアムmk。イングランドでのRWCの予選プールB・第3戦で、日本代表はサモア代表を制した。26―5。ジャパン史上初となるRWC1大会2勝目は、準備のたまものだった。 身体能力に勝る環太平洋の雄を向こうに、ジャパンは第2戦終了直後から10日間かけてゲームプランを立案、共有。それがうまくはまった。 まず、スクラムで優勢に立った。後列の押し込みを含めた全体のまとまりで優勢に立てる…。その目論見通りだった。 特に最前列のフロントロー陣は、ある戦略を用意した。相手の右プロップであるセンサス・ジョンストン(190センチ、135キロ!)を、左プロップの稲垣啓太とその隣のフッカーの堀江翔太で挟み込んだ。ジャパンがまとまって、相手の最も強い選手を孤立させた。 前半24分、敵陣ゴール前左中間。相手がシンビンで2人を欠いていた折の「8対7」のスクラムである。左の稲垣の側からぐいと押し上げる。サモア代表のジョンストンは外側のひじを地面側に下げ、上腕の力で稲垣を引きずり落とそうとする。稲垣は耐える。押し続ける。結局、ジョンストンが塊をわざと崩す「コラプシング」の反則を取られた。ジャパンは、反則がなければトライが決まっていたという意味の「ペナルティートライ」で加点できた(10-0)。