私への批判は既得権益グループの悪意あるキャンペーン――竹中平蔵が語る「本当の敵」 #令和のカネ
なぜ私が新自由主義者と言われるのか
──バブル後の企業の動きとして疑問に思うのは、不良債権に懲りたあと、内部留保をためこむばかりで、労働者の賃上げのほうに回していかなかったことです。 まず内部留保をためるという表現が間違っています。内部留保は、企業の財務を安定させるという意味ではいいことです。ただ、当時はデフレでした。デフレのときは物価が下がるので、現金の価値のほうが高い。だから現預金をもって投資しないというのが一番合理的なんです。それと、労働者の賃上げというのは別問題です。 ──別問題とは。 賃金を決めるのは労働者の生産性の問題ですよ。労働生産性が上がっていないのに賃金を上げるわけないじゃないですか。
──労働生産性を上げるには、終身雇用や年功序列といった日本型雇用がある限り難しいのではないですか。 その通りですよ。だから、賃金が上がらないのは生産性が上がらないことであり、さっきも言ったように労働市場に問題があるからです。もう一つ言えば、政府の政策も適切でなかった。生産性の低くなった企業や事業を生き延びさせるよう、補助金を出してきた。それで賃金が上がるわけないんです。 ──閣僚あるいは諮問会議の委員などで政治に関わってきました。どういう思いで関わってきたのでしょうか。 私自身は、よい政策を実現したかっただけで、政治の世界に入りたいと思ったことは一度もありません。でも、小泉さんから「一緒に戦ってほしい」と言われた。私も小泉さんなら変えられると思ったからやったのです。よい政策とは、国民が自由で豊かに生きられる社会を作るもののことです。それにしても、セーフティネットとしてのベーシックインカムなどを唱えているのに、なぜ新自由主義者とかなんとか言われるんですかね。多くの人が印象操作に振り回されていると思います。
竹中平蔵(たけなか・へいぞう) 1951年、和歌山県生まれ。1998年、小渕恵三内閣の経済戦略会議の委員に就任。2001年以降の小泉純一郎内閣では、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、内閣府特命担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣を務める。2013年、第2次安倍晋三内閣で、日本経済再生本部の産業競争力会議メンバーになる。現在、慶應義塾大学名誉教授。 森健(もり・けん) ジャーナリスト。1968年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。2023年、「安倍元首相暗殺と統一教会」で第84回文藝春秋読者賞受賞。