私への批判は既得権益グループの悪意あるキャンペーン――竹中平蔵が語る「本当の敵」 #令和のカネ
──ただ、そこで放置されたロスジェネ世代からは竹中さんは格差の元凶と恨まれている印象があります。 それは申し訳ないけれど、勉強してないから、キャンペーンを張っている人に信じ込まされているだけです。じゃあ、その格差の話をしましょう。小泉内閣で格差が拡大しましたか。そのエビデンスは何ですか。 ──これまで指摘されているのは派遣などの非正規労働者の増加です。1999年の労働者派遣法の改正です。 違いますよ。小泉内閣のとき、非正規は増えましたけど、正規も増えている。非正規がもっと増えていたのは1990年代です。それはアルバイトとパートなんです。ジニ係数(所得の不平等を測る指標)で見ても、小泉内閣の期間はジニ係数は下がっている。その間、世界ではジニ係数が上がっています。なぜなら、インターネットが出てきて技術革新が進んだからです。ITを使いこなせる人は有利になるし、そうでない人は不利になる。それは世界的な傾向です。でも、日本では格差の開き方は少なかった。OECD(経済協力開発機構)の報告書にも書かれているんです。 ──では、なぜあの時期、格差問題が激しく議論されたのでしょうか。 だからキャンペーンを張った人たちがいるんですよ。じゃあ、ちょっと質問しますけど、いま雇用者数は約6000万人(2023年)ですが、派遣の人ってどれくらいかわかりますか。実際は2.6%で149万人(労働力調査)。まったく少ない。みんな思い込みで議論しているんです。ましてや、それら派遣の規制に私自身は何の関係もないですよ。私は(労働法制を所管する)厚生労働大臣じゃないから。
──20年前と現在を比較すると、いまのほうが高収入、低収入の人が増え格差が拡大しました。 もちろんそうでしょう。なぜそうなるかは、やはり技術革新ですよ。ついていける人とついていけない人の差がついている。英米などのアングロサクソンの国はもっと格差がすごい。それと比べれば日本はまだいいんです。でも、私は所得再配分の新しい仕組みを考えなければならない段階に入ってきたと思いますよ。 ──その仕組みとは何ですか。 ベーシックインカム(すべての人に支給される最低限の所得保障)です。このまま放っておいたら、格差がもっと広がります。当然、教育をしっかりやって所得獲得能力を高めていかねばならないけれど、それでも格差は広がる。だから再配分する新しい仕組みが必要なんです。 竹中平蔵氏は政治との関わりが少なくない経済学者だ。1996年に慶應義塾大学総合政策学部教授となると、翌年、東京財団の理事に就任。財団内に設置した政策会議により政治家との接触が増え、1998年、小渕恵三内閣の経済戦略会議のメンバーに。2001年からの小泉純一郎内閣では経済財政政策担当大臣、金融担当大臣に就任した。また、小泉政権後は大手人材派遣のパソナグループの会長に就任した(2022年に退任)。近年はベーシックインカムの推進をたびたび主張している。