早稲田の現役比率が3割から7割へ 浪人は絶滅危惧種になるのか?
今の受験生の保護者世代は、大学入試が最も難しかった頃に受験しているので、浪人が当たり前だったかもしれません。しかし今は、浪人する学生が減り、現役志向が高まっています。そこにはどんな理由が考えられるのでしょうか。教育ジャーナリストの小林哲夫さんが考察します。(写真=早稲田大学大隈記念講堂、朝日新聞社撮影) 【写真】明治大から「仮面浪人」の道へ 小遣い10万円で受験、早稲田大にリベンジ合格した秘訣は?
ドラマから、浪人生が消えた
知り合いのテレビ局のドラマ制作担当者がこんな話をしてくれた。 「最近、浪人生が登場するドラマが少なくなりました。昔は刑事ドラマやホームドラマで悩める受験生として、浪人が描かれていたんですけどね」 たしかに、刑事ドラマ「相棒」に浪人はあまり登場しない。だが、1990年代までは、たとえば「太陽にほえろ!」「西部警察」に、犯人や目撃者として、浪人生はそれなりに重要な役割を果たしていた。ドラマに登場しなくなったのは、どうやら浪人生そのものが身近な存在でなくなりつつあるから、ということらしい。 浪人は減少し、現役が増えたということなのだろうか。これを数値で確かめてみよう。 1990年の現役進学率は51.7%なのに対し、2023年は92.5%となっている。旺文社教育情報センターは、こう解説している。 「高校既卒生はピークだった1991年の28.4万人から2023年は5.2万人にまで減少した。既卒生が減少した要因は、大学の入学定員が増え続けたことにより入試が易化したため。それに加えて受験生や保護者の中で『大学は現役で行くもの』という価値観が広がったためと考えらえる。2023年の現役進学率は92.5%で、現役受験生の9割以上が現役で大学に進学している」 大学進学者あるいは合格者全体において、現役と浪人の割合が経年でどう推移したかに関して、きちんとしたデータはなかった。だが、友人や親戚に浪人生はあまり見かけなくなったのではないだろうか。それを裏付けるかのように、浪人生対象の予備校の数が大幅に減っている。これは感覚的な見方であり、浪人減少がまだピンとこない方もいるだろう。そこで、早稲田大、明治大の現浪比率を調べてみた。 ここ10年で見ると、早稲田大全学部の一般選抜合格者の浪人比率は次のように推移している。 明治大も同じような傾向だ。受験生の親世代は、早稲田大、明治大は現役約3割、浪人約7割だった。だが、いまは現役約7割、浪人約3割とすっかり逆転しており、明治大は学部によって現役が8割を超えていることがわかる。 いったい何があったのだろうか。 高校生、保護者、高校教諭、予備校職員、大学教員からの話をまとめると、次のようなことが考えられる。 (1)現役・安全志向が高まった 高校生、保護者の間で「大学は現役で入るべき」という考え方が広がった。2000年代ごろまでは、自分の学力から背伸びして受験する、「ダメ元的」な「記念受験」の層があった。いまは、合格可能性が高い現役での受験に絞られている。 (2)経済的な理由で、浪人はできない受験生が増えた 大学進学率が57.7%となった今日、さまざまな階層が大学を目指すようになった。経済的に厳しい家庭では、「第1志望に不合格ならば浪人」と考えられず、第2、第3志望の大学に進むようになった。 (3)浪人は人生設計でデメリットという考え方が広がった 就職活動で不利になる、生涯賃金で損をしてしまうなど、浪人によるデメリットが語られるようになった。 (4)大学が増えて進学先の選択肢が増えた 過去20年、大学数と定員数の推移は次の通り。 旺文社の推定によれば、24年の受験生数は64万7000人。定員数は63万6000人なので、その差はわずか1万1000人となった。18歳人口が減少し続けており、現役が大学に進学しやすい環境になっている。 (5)全国にさまざまな学部、学科が生まれた かつて地方の受験生は地元に自分が志望する学部学科がなく、関東や関西などの都市部の大学に進まざるを得なかった。難易度が高い場合、進学をあきらめるか、浪人するしかなかった。だが、昨今、地元にも自分が志望する学部学科が増え、現役で進学できるようになった。 (6)女子の進学率が高くなった 過去30年、女子の大学進学率は1995年22.9%、2000 年31.5%、06年38.5%、12年45.8%、18年50.1%、22年53.4%と推移している(文科省データをもとに武庫川女子大学教育総合研究所が集計)。これまで短期大学や専門学校に進んでいた女子が4年制大学を目指すようになった。女子は現役志向が強く、女子が大学へ進むことになって、受験生および進学者全体の現役比率が高くなった。 (7)中高一貫校で進学指導が強化 中高一貫校で現役合格に向けた指導に力を入れている。浪人させない指導をセールスポイントとする学校もある。 (8)受験生にブランド大学へのこだわりが少なくなった 「東大しかありえない」「なにがなんでも早稲田」「絶対に慶應」という、特定大学への執着が薄れ、「何年かかっても」「浪人して」という思いを抱く受験生が少なくなった。いまの自分が入れる大学に進んでもいい、と考える受験生が増えている。 (9)学校推薦型選抜、総合型選抜が広がった 多くの大学で、一般選抜よりも、学校推薦型選抜・総合型選抜を重視するようになり、これらの枠が広がった。年内に大学入学を決める高校生が増えている。また、いずれの選抜方法も浪人が受験できる大学はあるが、メインは現役生である。浪人が受けられる枠が減ったともいえる。