北陸新幹線「延伸」でも心配なし? 滋賀県「並行在来線」が経営分離されない、これだけの理由
運命を左右する輸送密度
さて、JR西日本が公表している、湖西線と北陸本線の2023年度の区間別輸送密度は次のとおりである。 ・北陸本線の敦賀~近江塩津間:2万4572人/日・km ・北陸本線の近江塩津~米原間:1万1048人/日・km ・湖西線の近江塩津~山科間:3万3177人/日・km と多めだ。ただしこれは特急利用者を含んでいるため、JR西日本の資料「データで見るJR西日本2024の輸送・都市間」を基に、特急利用者分を除いてみる。 基本的に特急利用者は前述の3区間とも途中乗降はほとんどないため(あっても朝夕一部列車の近江今津停車と時々ある長浜停車くらい)、輸送密度からシンプルに京都~敦賀間の特急利用者数8103人 × 往復と、米原~敦賀間3043人 × 往復を引いた数で出してみると次のとおりとなる(利用者数に営業キロをかけて人キロを出して、また営業キロで割るだけなので、全区間通しの通過人員ならそのまま差し引けばよい)。 ・北陸本線の敦賀~近江塩津間:2280人/日・km ・北陸本線の近江塩津~米原間:4980人/日・km ・湖西線の近江塩津~山科間:1万6971人/日・km ※参考:草津線の貴生川~草津間:1万6122人/日・km 普通・新快速列車だけになってもこれほどの輸送密度があるため、小浜ルートになっても米原ルートになっても湖西線の経営分離の可能性はかなり低いといえる。また、北陸本線についても新快速が乗り入れており、輸送量は少なくはない。 輸送形態で見ても湖西線とセットで琵琶湖の周りを移動する需要に応えている様子が見てとれるため、滋賀県内の経営分離説には懐疑的だ。近江塩津での列車接続の組み合わせを見ると、米原から来た電車が湖西線列車に接続、湖西線から来た列車が米原方面の列車に接続となっている一方、米原~敦賀間の行き来では近江塩津で30分待つといった具合に琵琶湖エリアの周遊を優先するダイヤになっている。 こういった観点から筆者は北陸新幹線新大阪延伸にともなう並行在来線の経営分離は一切なしが最も可能性としては高く、2番目に可能性が高いシナリオでも滋賀県内はJRのままにして、近江塩津から先の福井県内だけは輸送密度2000人/日・kmを辛うじて維持できるレベルなので、ハピラインふくいに移管することになるのではないかと考えている。 「どっちにしろ滋賀県はセーフ」 というわけだ。一方で国としては湖西線分離が本命なのではないかという疑惑も捨てきれない。記事「北陸新幹線「米原ルート」 実は“料金”も小浜ルートより安かった! 所要時間以上の衝撃事実をご存じか」(2024年9月21日配信)へはこんなコメントが寄せられていた。 「あの料金試算、経路特定制度不適用前提ということは、政府試算は湖西線の経営分離を前提にしているということがわかった」 というものだ。北陸新幹線米原ルートでの運賃・料金の国の試算を分析したところ、敦賀~京都間は、通常は湖西線経由でも米原経由でも、距離が短い湖西線経由の営業キロで計算する 「経路特定制度」 を適用すべきところ、国の試算ではこれが適用されていなかったことを前述の記事で明らかにしたのだが、もし湖西線がJRでなくなるとすれば運賃の部分は国の試算が正しい。この点から国の本命は湖西線の分離だとする意見だ。