北陸新幹線「延伸」でも心配なし? 滋賀県「並行在来線」が経営分離されない、これだけの理由
過去のケースではどうだったか
過去、新幹線整備で並行在来線議論の対象となった区間ではどのくらいの輸送密度があり、その結果、経営分離されたか否かを以下に列挙する。 ●九州新幹線の並行在来線の輸送密度(2023年度) ・博多~久留米間:35.7km、6万889人/日・km ・久留米~大牟田間:33.6km、7096人/日・km ・大牟田~熊本間:49.1km、6588人/日・km ・熊本~八代間:35.7km、9693人/日・km ・八代~川内間:116.9km、1247人/日・km※ ・川内~鹿児島中央間:46.1km、6707人/日・km (※八代~川内間の数値は「鉄道利用実態調査(OD調査) 結果について」(平成12年6月6日実施)による) このように九州の場合は輸送密度が6000~1万人の区間が多いなかで極端に低いのが八代~川内間だ。この区間が肥薩おれんじ鉄道に経営分離され、その他の区間はJRのまま存続となっている。 過去の新幹線開業区間を振り返れば、必ずしも並行在来線全線が経営分離されてきたわけでもない。北陸新幹線長野開業時も、特急しなのが乗り入れる長野~篠ノ井間はJRのまま存続。西九州新幹線では並行はしていないが長崎への特急が走っていた長崎本線の有明海側(肥前山口~諫早間)は並行在来線議論の対象にはなったが、開業から23年間の時限条件と上下分離方式によりJRのまま存続している。 また、特急は走っていないので並行在来線に指定されていないけど並行している大村線もJRのまま残った(余談だが、このケースを踏まえると小浜ルートになったとしても、小浜線の経営分離はまずないといえるのではないか)。それでも心配な人は 「十分に輸送密度があった北陸エリアの在来線はすべて経営分離されている」 と思うかもしれない。そこで北陸新幹線の並行在来線の輸送密度も調べてみた。福井県並行在来線地域公共交通計画協議会が2021年10月にまとめた資料によれば、ざっくりとした数字ではあるが次のとおりである。 ・あいの風とやま鉄道区間:7700人/日・km ・IRいしかわ鉄道金沢以東区間:1万5000人/日・km ・ハピラインふくい区間:5600人/日・km 金沢~福井県の区間についてはJR時代の特急を含んだ数字しか見つけられていないため言及は避けるが、確かにこれだけの輸送密度があってJRが経営分離するには、在来線の収支だけで考えれば違和感を覚える。 まず大前提、JRにしてみれば黒字線区だと新幹線の線路使用料の算定上、経営分離してもしなくても、メリットもデメリットもない区間である。そのため北陸区間については並行在来線各社の意向が働いたのではないか。JR東日本から長野~篠ノ井間という1番おいしいところを取れなかったしなの鉄道のケースを教訓に、 「おいしい区間もまとめて引き継いで収支の悪い区間を維持する」 ということになったのではないだろうか。ところどころJR区間になったり別会社になったりを繰り返すのも利用者の利便性上よくない(それでも七尾線や氷見線、城端線と接続する金沢~富山間はJRのままにしてもらいたかったところだが)。 しかも最近は富山県などが城端線や氷見線、そして高山本線のJR西日本区間など、富山県内のJRを全部まとめて引き受けたいといい始めているほど、自分たちでやっていきたいという意欲が強い。京葉線問題の渦中にある ・千葉県 ・千葉市 にも見習ってもらいたい姿勢である。 またJRとしても下手に在来線も残せば、新幹線の新大阪全通までの間発生する特急と新幹線の乗り換えに対するブーイングが続くなかで 「在来線もJRのままなんだから特急も残せ」 という声が強まるのも嫌だろう。こういった背景から分離したのだと筆者は考える。 となると、小浜ルートであれ米原ルートであれ、これまでの点を考慮すれば、今回の新大阪延伸のケースでは、JRからの経営分離区間は発生しないと見るか、交渉次第でJRのまま存続と考えるのが自然ではないだろうか。滋賀県は並行在来線の心配をすることよりも長浜に止まる特急がなくなったらどうしようとか、他に心配することがあるだろうと思うのだが。