ファスナー界のリーダー「YKK」のテクノロジー【前編】触感はどこまでデザイン可能か?
服をまとうことが「ファッション」であるとするなら、そもそも素材としての「布」と「服」の違いは何だろうか。 服とは布が「切り分けられ」「縫い合わされ」形作られたものだろうか。 別の観点では、服とは「着脱できるようにした」布だ、とも言えるだろう。襟・袖・ウエスト・裾などの「穴」はそのための最低限の機能のひとつだが、多くの服では「異なる布を留める/外す」というシンプルなテクノロジーによって「服」を成立させている。これを服飾業界では「留め/外し=ファスニング」と呼ぶ。 いわゆるボタン・ファスナー・フック・トグルなどのパーツである。そこにはどんな技術の奥深さがあるのだろうか。 本記事ではファスニングの代表的な企業「YKK」を取材した。年間300万km以上のファスナーを生産する巨大グローバル企業であり、日本の技術力を世界に示し続けているという意味でも偉大な存在だ。 YKKの研究開発部門「テクノロジー・イノベーションセンター」の協力を得て、ジャパンカンパニー嶌田和彦さんのコメントも交えながら、数多くの服に取り付けられているこの小さなパーツに込められた技術をディープに紹介しよう。
ファスナーとは何か
いわゆる「ファスナー」または「ジッパー」は、分解すると3つのパーツからなっている。手に持って動かす部分の「スライダー」、噛み合う歯の部分「エレメント」、そして生地へ取り付ける部分の「テープ」である。「テープ」部分を縫い付けることでファスナーは服のパーツとして機能する。
その発祥は1891年。アメリカの発明家ホイットコム・ジャドソンが「靴ひも」を結ぶ不便さを解消するために開発したものが起源とされることが多い。意外なことに、はじめは「服」のパーツではなく、ファッションアイテムに欠かせないパーツとして普及するようになるには、誕生から数十年を要した。 世界ではじめてジーンズにジッパーフライが採用されたのは1926年、Leeの「101Z」だった。1928年もまた記念碑的な年と言える。 Schottがフロントジップを備えたライダースジャケット「PERFECTO」を発売。「ダブルライダース」の歴史が始まったのだ。