刑事司法は“女性に甘い”? 統計から見えてくる「女性の殺人」と「量刑」の傾向とは
「女性による殺人」の統計的な傾向とは?
上記のように、犯罪の背景に存在する事情は、量刑判断の結果に影響する。では、女性による子殺しや殺人の背景にはどのような「犯情」が存在するのだろうか。 女性がおかす殺人の傾向について、過去、柴田教授の所属する研究チームは1989年から2004年頃までの合計375の裁判例を集めた実態調査を行っている。 その結果によると、家族・親族や交際相手などの「親密圏」で起こった犯罪が87.2%であった。また、昭和50年代前半(1975~1980年)の裁判例を集めた先行研究では92.6%であったため、女性による殺人のおよそ9割前後が親密圏で起こっているといえる。 そして、女性による殺人の典型例が、生後24時間以内の子どもが被害者となる「新生児殺」だ。もともと新生児殺は「堕胎罪」の延長として捉えられていたために量刑が軽く、昭和50年代前半には懲役3年で執行猶予が付く場合も多かったという。しかし、現在は殺人罪の有期刑の下限が5年となっているため、執行猶予が付く可能性は少ない。 また、新生児殺の背景事情は、養育費の問題など将来の経済的不安に起因するものと、妊娠後の男女関係のもつれに起因するものに大別されるという。 なお、昭和50年代前半を対象にした先行研究では女性による殺人全体の約4分の1が新生児殺であったが、柴田教授らによる調査では約12分の1にまで低下した。「人工妊娠中絶の拡大などが影響していると考えられます」(柴田教授)
「夫殺し」の半数以上は相手からのDVが引き金
「就学前の子どもの殺害」も、女性による殺人の典型例だ。 具体的には、低年齢の子を道連れに無理心中を図るようなケースが挙げられる。主に家族問題に起因する事例であり、動機としては「逃避」が中心になる。また、母親がノイローゼによって心身の機能不全を患っている場合などもよく見られるという。 また、先行研究に比べると、柴田教授らの調査では20歳以上の子どもを殺害するケースが増えていた。このようなケースの半数以上では子どもの家庭内暴力が母親による犯行の引き金となっており、また子どもの精神障害なども背景にある。 さらに、「配偶者や交際相手の殺害」も女性による殺人の典型例といえる。このようなケースは昭和50年代前半を対象とした先行研究では全体の5分の1超であったのが、柴田教授らによる調査では全体の3分の1超となったため、増加傾向にあることが推察される。 配偶者の殺害については、半数以上が、被害者(夫)からのDVが犯行の引き金になっている。交際相手の殺害についても、3割~4割近くにおいて、被害者からの暴力や性関係の問題などが犯行に影響しているという。 「また、実父母・義父母を殺害したケースについても触れておかなければなりません。先行研究では全体の3.7%であったのが、私たちの調査では6.7%であったので、少し増えています。 背景事情としては、被害者ら(父母)の暴力・暴言に起因する場合や、家族問題・経済問題が原因の場合があります」(柴田教授)