刑事司法は“女性に甘い”? 統計から見えてくる「女性の殺人」と「量刑」の傾向とは
量刑の「基準」は存在するか?
日本の刑法典には「刑の加重減軽の順序(刑法72条)」「法律上の減軽(刑法67条)」「加重軽減の方法(刑法68条~71条)」「執行猶予中の保護観察の有無判断(刑法25条の2、刑法27条の2)」など、刑に関するさまざまな定めがある。 しかし、量刑事情(量刑の際に考慮すべき事由)をどのように考慮して、どの程度まで重視するのかという「量刑基準」が法令で定められているわけではない。ただし、量刑事情については、起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)の規定によって定められている「起訴裁量の際に考慮すべき事由」が参考になると考えられてきた。 実際の量刑判断においては、訓練を受けた裁判官が量刑を担ってきたことや、検察官が一定の基準にもとづいて求刑を行うことなどから、量刑には一定の傾向が形成されてきた。いわゆる「量刑相場」と言われるものだ。過去の裁判例をもとに量刑の実証研究を行って解析してみた場合にも、量刑に傾向があるのは見てとれるという。 つまり、同種の犯罪に対する量刑は、裁判官が違っても一定の傾向がある。量刑の「基準」が明確に定式化されているわけではないが、年月を経て相場が形成されてきたということだ。
量刑判断における「情状酌量」の位置付け
裁判員制度は2009年(平成21年)5月21日から始まり、一般国民も裁判員として量刑判断に関わるようになった。これを受け、最高裁判所に設置された司法研修所による『平成21年度司法研究』により「裁判員裁判における量刑判断モデル」が示された。 具体的には、量刑判断の流れは以下のようにモデル化される。 ①:犯罪行為を確定することによって、「法定刑」という第一次的な刑の枠組みを導く ②:当該の犯罪行為がどのような「社会的類型」に属するかを明らかにして、法定刑の範囲の内で上限に近いところかまたは下限に近いところかを判断し、一定の幅に絞り込む ③:その他の周辺的・付随的な諸事情を考慮して、②で定めた幅の内から、宣告刑を決定する 「量刑判断モデルはこれまでの量刑実務に沿って構築されたものであり、現在では、ほぼ定着したと考えてよいでしょう」(柴田教授) そして、量刑判断の過程で酌量される「情状」は、二種類に分けられる。 犯罪に関する量刑事情である「犯情」については、②の社会的類型に影響する場合もあれば、③の周辺的・付随的な諸事情として扱われることもある。 一方、被告人の背景など犯罪に関しない量刑事情である「一般情状」については、③のタイミングで考慮されることがほとんどだという。