刑事司法は“女性に甘い”? 統計から見えてくる「女性の殺人」と「量刑」の傾向とは
統計から見えてくるのは「女性の生きづらさ」
では、はたして「司法は女性に甘い」のだろうか。 柴田教授が指摘するのは、司法が男性に比べて女性に「甘い」かどうかは、量刑(宣告刑)の度数分布(データを特定の範囲に分類して、それぞれの範囲にいくつのデータが該当するかまとめる方法)によって比較しても証明できない、という点だ。 「たとえば、ひとくちに『子殺し』といっても、新生児殺や嬰児殺もあれば、就学前の子どもを殺害するケース、それよりも年齢の高い子どもを殺害するケースもあります。 つまり、『子殺し』というカテゴリーだけでは同種事犯の分類とはならないのです。 さらに、量刑は一定の範囲内に収まっていれば法的には量刑不当だといえないわけですから、量刑という『点』を集積した度数分布だけでは、『軽い』または『甘い』と単純に評価することはできません」(柴田教授) 柴田教授の研究チームが殺人罪・殺人未遂罪で有期懲役が科された裁判例733件を対象に行った調査からは、「殺人未遂で死亡者がいない場合」「被告人が心神耗弱の場合」「嬰児殺」「介護疲れ」「無理心中」などのケースでは「犯情」が酌量され、刑期が軽減される傾向にあることが統計上明らかになっているという。このうち、「嬰児殺」「介護疲れ」「無理心中」は女性による殺人において比較的多いケースだ。 なお、「被害者が宥恕(ゆうじょ)した場合(※)」や「被告人に前科前歴がなく、犯行を認めて反省している場合」「被告人に同情の余地がある場合」には一般情状が酌量され、量刑が一定の範囲内において減軽されることも、統計解析の結果から証明されている。 ※宥恕……犯罪等の行為を許すこと。示談書には「宥恕する」や「許す」等の文言が記載される場合がある。 「以上のことをふまえて、あえて少し踏みこんだ解説をいたしますと、量刑(宣告刑)の度数分布に男女差が見られるのは『司法が女性に甘い』ことを示唆するものではなく、むしろ『殺人をおかす女性の生きづらさ』が反映された結果が示されている、と解するほうが適切だと思われます」(柴田教授)
弁護士JP編集部