中間選挙で“信任” 「トランプ化」進むアメリカ政治
むしろ再選のチャンス?
共和党が「トランプ党」になるのは、トランプ大統領にとっては追い風である。 さらに2020年大統領選の再選についても、現時点では「黄信号」と言えないだけでなく、むしろ下院を民主党に奪われたことで再選のチャンスも高まった可能性すらある。 今回の選挙を経て、トランプ大統領は、下院で過半数を獲得した民主党を明確な敵とみなし、これまで以上に攻撃するだろう。民主党が議会でトランプ氏の足を引っ張るため、政権運営がうまくいかないという論理を展開するのではないか。政治停滞の責任を民主党になすりつけ「悪いのは過激なリベラル派だ」などと非難した場合、トランプ支持者はむしろ結束する。支持者がトランプ氏の指摘になびき、次期大統領選に向けて奮起し、再選の後押しにつながるかもしれない。今回の中間選挙では投票しなかったが、2020年のトランプ氏の再選は応援しようという声である。 敵をつくり、支持層を結束させる戦術を強めることで、国の分断はさらに進む。 トランプ氏は移民を拒み、オバマ前大統領が実現に導いた医療保険制度を骨抜きにし、銃規制に背を向けてきた。今回の選挙戦でも、こうした「トランプ的なるもの」の是非が問われた。特に移民問題は中核的な争点だった。トランプ氏は人間の心の暗部に訴えかけ、排斥感情を呼び覚ました。民主党にとっては、トランプ氏によるこれまでの破壊的な政権運営に歯止めをかけ、修復していく時間を得ることになる。そして、ねじれ状態を生かし、ロシア疑惑をめぐる弾劾訴追などによって、トランプ氏ののど元にナイフを突きつけるように強硬姿勢を先鋭化させるかもしれない。 一方で、今回の選挙結果をみると、トランプ氏にとっても死角がある。ウイスコンシン、ペンシルバニア、ミシガン各州の上院議員選・州知事選は、共和党が敗北を喫しているのだ。いずれの州もトランプ氏が2016年選挙で当選した時の要となった「ラストベルト(Rust Belt=さびついた工業地帯)」の州である。このラストベルト4州を落とすと、トランプ氏にとって再選は不可能であり、それだけをみても決して盤石ではない。 次の大統領選に向け、民主党側はいまのところ、深刻なスター不在の状態にもみえる。これから春にかけてトランプ氏と並んでも見劣りしない候補者が出てくるか。そこがこれからの注目点でもある。 ------------------------------------ ■前嶋和弘(まえしま・かずひろ) 上智大学総合グローバル学部教授。専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後、ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単著,北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著,東信堂,2014年)、『ネット選挙が変える政治と社会:日米韓における新たな「公共圏」の姿』(共編著,慶応義塾大学出版会,2013年)