「カルチャープレナー」とは何か。文化と経済をつなぐ新しい起業家たちの躍動
「文化」とは何か
では、どのように産業中心の経済からシフトしたらいいのか。福原は、文化と経済をつなぎ、両者の架け橋となる「想像生産」がカギとなるという。つまり、単にモノを売るのではなく、ストーリーの力や情報、雰囲気などの付加価値をつけることにより、これまで経済の領域になかった文化を資本化することが重要となる。 今、日本でも多くのカルチャープレナーが誕生している。カルチャープレナーとは、こうした文化資本を生かしながら、新たな価値を創出し、産業との距離を結びつけながら共に発展できる、新しいタイプの起業家なのである。 ■「文化」とは何か もうひとつ、整理しておきたい概念がある。それは「文化」だ。カルチャープレナーといったときの「カルチャー」は何を指すかということである。 文化という言葉が含む意味は、非常に多面的で複雑だ。前出の福原は、文化とは「芸術表現や学術・思想に限定されるものではなく、感性や知を蓄積しながら常に生成・発展する生き方といった、広い意味」であるとした。この特集においては「ある価値観や思想の共有体(から生まれるアウトプット)」という視点も加えたい。ここでいう価値観や思想とは、長い時間をかけて洗練され、社会をより豊かに「耕す(cultivate)もの」を指す。大事なポイントは「長期的視点」である。 カルチャープレナー特集が掲載された「Forbes JAPAN2024年11月号」の表紙を飾ってくれたヘラルボニーは、自分たちの事業を「社会運動でもある」と語っている。障害のある「異彩作家」だからこそ生み出すことができる作品に事業価値を見いだし、そのプロダクトやエコシステムごと、自分たちの考えや態度を世界に知らしめていく。つまり、彼らが手がける事業が拡大すればするほど、「文化の年輪」は刻まれ「社会そのものを前進させる」ことにつながっていくわけだ。 そうした思想や価値観は一朝一夕では浸透しない。時間をかけて人々の意識を耕し続ける、まさに「運動」であると言える。 また、ベネッセアートサイト直島を起点にアートによる地域づくりを牽引するベネッセホールディングスの福武英明と、昨年の受賞者でTeaRoom代表であり茶人でもある岩本涼の対談では、何をもって文化と呼ぶのかという議論がなされた。その話のなかで出てきたのが、例えばクラシック音楽のように、文化とはその時代その時代で繰り返し「解釈」されるに耐えうるもの、というひとつの視点だった。つまり、「意味のイノベーション」が長期的、かつ継続的に行われるものこそが、文化に資するものではないかという考えだ。やはり長期的視点は不可欠であり、現時点で行っている創作や取り組み、事業などが「文化」と呼ばれるようになるかどうかは、「後世の人たちが決めること」であるという。つまり、「今、未来の新しい文化をつくろうとしている人たち」こそが、カルチャープレナーなのである。