錦織圭と国枝慎吾が描くジュニア育成の未来図。日本テニス界のレジェンドが伝授した強さの真髄とは?
真っ向勝負が与えた衝撃「今までと違う視点で見るきっかけに」
世代や性別も異なる選手たちが交流する色彩豊かなテニスコートでは、次々に刺激的な化学反応が生まれる。全日本ジュニア17歳以下男子優勝者の逸﨑獅王と、16歳の松村怜は、国枝氏に自らの力を示すべく、身体をしならせ、全力でボールを打ち込んでいた。対する国枝氏も一打ごとに気合いの声を上げ、力強いボールを打ち返す。力と力の真っ向勝負から、どちらも引く気配はなかった。 「やっぱり国枝さんは、すごかったです」 練習後に逸﨑が、顔を上気させ実直に語る。 「僕は足の力も使って打ってるのに、国枝さんに上半身だけで返された。やっぱり上半身の筋力が大切だというのを感じたし、僕ももっと鍛えたいです」 その逸﨑の言葉を伝え聞いた国枝氏は、「必死でしたよ!」と顔に苦笑のシワを刻みつつも、「でもそういう感想をもらえるのは、すごく嬉しいですね」と優しく笑い、こう続けた。 「今回、こういう時間を設けてもらったなかで、僕自身がフルでやることできっと、彼らに伝わることがあるかなと思ってやってました。やっぱり車いすもトップであれば、あれだけのレベルでラリーができるんだよってところは証明したかったし、見せたかったし、わかってもらいたかった。それがゆくゆくは、彼らの視野を広げることになるんじゃないかな。テニスという競技の中に車いすをやっている人がいて、その人たちがどういうボールを打つのかというのはきっと、頭の中に記憶として残り、何かの時に蘇る日もくるんじゃないかなって思います。 グランドスラムでは車いす部門も一緒に開催されるし、彼らもこの先、いろんなところで目にすることになると思う。今日のこの一コマが、そういった『車いすも一緒にやっていくのがテニスなんだ』という思いにつながるかもしれないし、日常生活も含めて、何か今までと違う視点で見るきっかけになるかもしれないですしね」 国枝氏が、全力で放つボールに込めたそれらの想いは、打ち返すジュニアたちにも、きっと重く伝わっただろう。